シネマグランプリ2017・受賞発表/作品・監督部門
- 2018.03.03 Saturday
- 21:00
「オンライン映画演劇大学・シネマグランプリ2017」の受賞者、受賞作品が決定しました。外国映画は第1次エントリー、第2次エントリー、最終ノミネーションの発表を経て、日本映画編は1回のみの日本映画エントリーを経てからの最終発表となっています。各部門のノミネート作品、受賞者・受賞作品をここに掲載します。各部門の候補作・候補者のうち、カラー文字が受賞作・受賞者でです。一作の独占受賞にならず、できるだけ多くの作品を紹介する場とする事を選出方針にしています。(資料作成:今村直樹/選評:広川治/2017年3月3日)
オンライン映画演劇大学
シネマグランプリ2017
―各部門の受賞の発表と選評―
―CONTENTS―
<外国映画編/作品・監督部門>
<外国映画編/演技部門>
<外国映画編/スタッフ部門>
前年度の選出結果
<外国映画編/作品・監督部門>
【作品賞:英米映画部門】
ラ・ラ・ランド (La La Land)
ドリーム (HIdden Figures)
ハクソー・リッジ (Hacksaw Ridge)
LION/ライオン (Lion)
女神の見えざる手 (Miss Sloane)
<選評>
「ラ・ラ・ランド」はスタイリッシュなミュージカル映画としては「シカゴ」(2002)以来の傑作。往年のハリウッド・ミュージカルの細部を意識的に模倣しながら (La La Land - Movie References参照)、躍動感あふれるジャズのリズムやカラフルな色彩を用い、時を超えた夢と想像力にあふれたL..A.の街、La La Landを見事に創り上げている。最大の功績はやはり監督のデイミアン・チャゼルに帰すべきだろう。前作「セッション」は、日常生活を捨て去り、ジャズに身を投じる青年の壮絶な生のエネルギーを描いた作品だった。「ラ・ラ・ランド」ではときめきとあきらめ、哀しみと歓び、夢と現実など、人生のすべてを音楽に吸い取らせスクリーンに解き放っている。シネマグランプリでは、できるだけ多くの作品にスポットライトを当てたいと考えているので、作品賞候補以外の映画から監督賞を選んでいる。その結果、デイミアン・チャゼルは対象外となったが、受賞に等しい才能の開花だった。他に主演男優賞、主演女優賞、脚本賞など、計10部門でノミネート。作品賞、作曲賞、主題歌賞 (“Another Day of the Sun”)の3部門での受賞となった。
「ドリーム」は人種や女性差別を超えて飛躍する才能豊かな3人の黒人女性たちの物語。彼女たちの奮闘努力の結果が初の有人宇宙飛行のクライマックスへ見事に昇華していて感動的だった。今回ノミネートには至らなかったが、タラジ・P・ヘンソン、オクタヴィア・スペンサー、ジャネール・モネイの3人の演技も最高で、女性たちの情熱とユーモアが画面から伝わってくる。
「ハクソー・リッジ」は沖縄戦の実話に基づく作品。死体を楯にしてまで前進しようとする戦場の恐ろしさに唖然とさせられる。主人公が良心的な意図で銃を手にすることを拒否し、衛生兵として必死に人命救助にあたっている姿に心を打たれた学生も多かった(昨年度春期の映画レポート対象作品)。シネマグランプリではアンドリュー・ガーフィールドを主演男優賞に選出している。
「LION/ライオン」は5歳で迷子になり養子として育てられたサルー・ブライアリーという青年が、Google Earthを駆使して故郷を探したという実話に基づいた作品。幼い頃のサルーを演じる子役の演技とインドの壮大な風景に惹きつけられる前半、デヴ・パデルがアイデンティティーに悩む青年時代を演じて繊細な演技を見せる中盤、家族との再会を求めて行動に移る感動的な終盤と、実話とは思えないほどドラマティックにまとめられている。シネマグランプリでは今年度から優れた子役に対して贈られる男子演技賞、女子演技賞の部門を創設。男子演技賞としてこの映画のサルーの少年時代を演じたサニー・パワール君を選んでいる。
公開前 (10月)に未見だったため、レポート対象作にしなかったことを後悔しているのが「女神の見えざる手」である。政治の世界で依頼者のために活動資金や選挙票の裏工作をするロビイストの女性を主人公にした作品だが、政界の裏でのスリリングな駆け引き、冷徹なヒロインの非人間的人格の凄さ、二転三転する物語の面白さなど、見ごたえのある一本だった。女性版「半沢直樹」と呼びたくなるようなどんでん返しにも驚かされる。シネマグランプリではジェシカ・チャステインを主演女優賞に選びたい。
【作品賞:グローバル映画部門】
夜明けの祈り (フランス)
おとなの事情 (イタリア)
セールスマン (イラン)
立ち去った女 (フィリピン)
新感染 ファイナル・エクスプレス (韓国)
<選評>
「夜明けの祈り」は第2次世界大戦末期にポーランドで起きた実話を基にした作品。赤十字で働いていた女性医師が内密に呼ばれた修道院で目の当たりにしたのは、撤退時のソ連兵の残酷な行為によって変わり果てた7人の修道女の姿だった。行き場のない修道女たちに手を差し伸べる医師マチルダのヒューマニズムを軸に物語は展開していく。密かに修道院を訪れなければならない危うさ、厳しい修道院長との対立、母性にめざめる修道女たちの哀しみと希望がポーランドの美しい雪景色を背景に描かれた秀作である。監督は「ココ・アヴァン・シャネル」(09)のアンヌ・フォンテーヌ。
スマホは不倫や隠し事のための道具なのか。「おとなの事情」は会食に集まった友人7人が着信の音声やメールをオープンに聞いたり、読んだりするというゲームを始めた事から、一人一人の思いも寄らぬ秘密が明らかになっていくというイタリア映画。最初は仲が良かったメンバーが不安、困惑、焦りを次々と見せていく様が滑稽なのだが、次第に笑って見ていられなくなるほど部屋の空気はよどんでくる。室内劇同然ながらも飽きさせずに一気に見せ切るパオロ・ジェノヴェーゼ監督の脚本を特に評価して、シネマグランプリではオリジナル脚本賞受賞としたい。
「セールスマン」は留守中に妻を襲った犯人を探す夫の物語。と言っても、イランの名匠アスガー・ファルハディ監督が目指したのは、犯罪映画でもなければ、単なる復讐劇でもない。事件をきっかけに俳優夫婦に生じたすれ違いの感情が、彼らが舞台で演じるアーサー・ミラーの劇「セールスマンの死」の夫婦の溝と交錯していく。苛立ちと怒りを心に抱えた夫を演じたシャハブ・ホセイニは、この映画でカンヌ国際映画祭で男優賞を受賞している。観客は彼の演じるエマッドの視点を共有していくうちに、怒りの感情が引き起こす思わぬ事態に困惑せざるを得なくなる。
「立ち去った女」は長回し、長尺で知られるフィリピンの映像作家ラヴ・ディアス監督がワンシーン・ワンカットを重ね、美しいモノクロで3時間48分にまとめたベネチア国際映画祭金獅子賞受賞作。恋人に騙され、殺人犯として30年間も刑務所で過ごしたホラシアという女性が無実を証明されて復讐の旅に出る。しかし旅先で出会うホランダという病気と暴力でぼろぼろの女性(の恰好をした男)など、社会の底辺でつらい毎日を送っている人々へ向けられていく彼女の共感と慈愛の心が何かを変えていく。彼女を見守る観客の何かも含めて。行く先の定まらぬ人間の哀しみを寓意的に提示している作品だ。人間の本質に迫る映像の深みは他の追随を許さない。グローバル映画部門の作品賞は「立ち去った女」に決定。
作品の解説は
(山中達弘・映画評論家)
「新感染ファイナル・エクスプレス」はノンストップ・ホラー・アクションとして最高のエンターテインメント。列車の車内で次々と大量に襲いかかるゾンビの攻撃にどう対峙していくか。その疾走感は「マッドマックス・怒りのデスロード」を思わせるものがあった。パニック映画としてお決まりではあるが、エゴイズム対自己犠牲のドラマもきちんと描かれていて、意外にもクライマックスでは家族の絆の物語に泣かされた。昨年の韓国映画は、連続惨殺事件が想像以上の恐怖の世界へと変貌していく「哭声/コクソン」や、策略、エロス、狂気に満ちたパク・チャヌク監督の「お嬢さん」など、スクリーンに目が釘付けになるばかりだった。
【監督賞】
ドゥニ・ヴィルヌーヴ
(メッセージ/ブレードランナー2049)
クリストファー・ノーラン (ダンケルク)
ジョシュア & ペニー・サフディ (グッド・タイム)
ジム・ジャームッシュ (パターソン)
アレハンドロ・ホドロフスキー
(エンドレス・ポエトリー)
<選評>
ドゥニ・ヴィルヌーヴはカナダ出身で、日本でも上演され話題となった戯曲「灼熱の魂」(10)の映画化がアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされ、世界が注目する監督となった。「ボーダーライン」(13)、「プリズナーズ」(15)などで、緊迫感あふれる濃密なドラマを作ってきたが、尋常ではない特殊な状況の人間の感情を描くのが得意な監督と言えるかもしれない。SF映画の大作2本の監督に抜擢され、近年のSF映画の傑作「インターステラー」に迫る秀作を2本まとめあげた。静謐な映像設計の中、迫り来る主人公の不安と迷いをじわじわと増幅させ、予想外のラストへと観客を巧妙に導いていた。
「インターステラー」と言えば、クリストファー・ノーランである。新作「ダンケルク」は同じ激戦地の戦争映画でも、「ハクソー・リッジ」のような主観的な反戦感情は極力排し、戦場の恐怖をを観客にリアルに体感させることに徹した作品だった。その力は迫力ある音響効果も含めて驚くべきものがあった。
ジョシュア & ペニー・サフディ兄弟は今回初めて注目した監督。麻薬中毒の若者たちを描いた代表作「神様なんてくそくらえ」で第27回東京国際映画祭にてグランプリと最優秀監督賞を獲得している。5作目にあたる「グッド・タイム」は知的障害の弟と共に銀行強盗をした主人公がニューヨークの街を逃げ回る一夜をスリリングに描いている。兄弟監督の弟のベニーは知的障害の弟役を好演 (シネマグランプリ助演男優賞候補)。
「パターソン」はニュージャージー州の町パターソンが舞台。主人公の名前もパターソンで、バス運転手として働きながら、ノートに日常の思いを詩に託して書きためている。ジム・ジャームッシュが描くのは彼の何気ない一週間なのだが、映画というものが現代詩の一篇になりうることを証明しているようで素晴らしい。
ホドロフスキー監督の経歴は、まるで20世紀の芸術家のリストのようだ。若き日に影響を受けたのが「天井桟敷の人々」のマルセル・カルネ監督。チリから渡仏して戯曲を共著したのがパントマイムのマルセル・マルソー。製作中止となったSF映画の出演予定者には、ミック・ジャガーやサリバトール・ダリの名があり、こういった20世紀の大物アーティストからの影響や交流が下地となっているのが「エンドレス・ポエトリー」である。自伝的作品「リアリティ・ダンス」の続編だが、独立した一遍としても十分に楽しめる。現実と異空間の間を自由自在に行き来する監督の大胆な手法はマジック・リアリズムと呼ばれており、まるで作品はモダン・アートのギャラリーのようである。しかし自分の末の息子に若き日の自分を演じさせた物語は決して難解なものではなく、そこに託されたメッセージは明快だ。死と隣り合わせの生の豊かさがスクリーンから伝わってくる傑作を90歳を前にして発表したアレハンドロ・ホドロフスキーに、オンライン映画演劇大学・シネマグランプリ監督賞を贈呈したい。
【アニメーション映画賞】
モアナと伝説の海
レゴバットマン ザ・ムービー
クボ 二本の弦の秘密
ブレンダンとケルズの秘密
ゴッホ最期の手紙
【選評】
「アナと雪の女王」がホワイトが色調だったのに対して、ディズニーの新作「モアナと伝説の海」は鮮やかな海のブルーが基調で、モアナの性格も物語もすがすがしい。「レゴバットマン・ザ・ムービー」はポスターのベーシック・カラーはイエローだが、ゴッサム・シティが舞台なので、実際は暗い夜の空を現す濃いブルーの世界で物語は展開。ただし「バットマン」のパロディ満載のコメディとして笑えるレゴ・アニメ。「クボ 二本の弦の秘密」は日本の田舎の風景や武士たちの鎧の茶系の印象が強く、ゴッホの絵画が動き出す世界「ゴッホ 最期の手紙」はひまわりのイエロー。アイルランドのアニメ「ブレンダンとケルズの秘密」は魔法の森のグリーンが美しい。様々なカラーが彩る佳作が並んだ1年だったが、どれも最新技術を駆使して個性豊かな世界を創造していた。1作品に絞りにくいところだが、ミュージカルとしての楽しさもある点を考慮して「モアナと伝説の海」をアニメーション映画賞に。
【ドキュメンタリー映画賞】
ギフト 僕がきみに残せるもの
ぼくと魔法の言葉たち
ヨーヨー・マと旅するシルクロード
ソニータ
ダンサー、セルゲイ・ポルーニン
世界一優雅な野獣
【選評】
「ギフト 僕がきみに残せるもの」は体の機能が徐々に失われていく難病ALSを宣告された元アメリカンフットボール選手スティーブ・グリーソンのドキュメンタリー。想像を絶する苦しみを乗り越えようとする精神のもろさと強さ、その二つがひしひしと映像から伝わってくる。夫婦や家族の在り方や介護の問題など、考えさせられる内容が多く詰まっていた。
「ぼくと魔法の言葉たち」は自閉症で言葉を失った少年オーウェンがディスニーのアニメーションのセリフを通して言葉を取り戻し、成長していく姿を追った作品。ディズニーのアニメの様々な場面が挿入され、オーウェン自身を描いたオリジナルのアニメまで交えたユニークなドキュメンタリーに仕上がっている。
「ヨーヨー・マと旅するシルクロード」は、世界的チェリストのヨー・ヨー・マが様々な文化的、政治的背景を持ったミュージシャンを集めて世界へと発信した「シルクロード・プロジェクト」を記録したドキュメンタリー。アーティストの一人が「ある時代の政治やベートーヴェン時代の王を覚えている者はいないが、文化というものは残る。その一部である言葉や音楽も継続する」という言葉が忘れがたい。
アフガニスタンのタリバンから逃れてイランの保護施設で暮らしていた少女を3年間にわたって取材したのが「ソニータ」。親の決めた相手と結婚しなければならない故郷の慣習に反発して「売られる花嫁」というラップ・ソングを作って女性の自由と権利を歌い、YouTubeに投稿。世界中から大反響を呼ぶまでソニータが歩んだ道のりと大ヒット後の生活がフィルムに収められている。彼女のラップ映像もノーカットで収録されている。
同様に、YouTubeに投稿された映像が世界中で話題となったのが天才的ダンサー、セルゲイ・ポルーニン。「ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣」が見せてくれるのは、故郷から離れて踊る天才の孤独な姿。伝統的なバレエの世界になじめない破天荒な個性の持ち主ゆえ、彼の苦しみは絶えることがない。その苦悶をホオジアのヒット曲“Take Me to Church”に載せて表現したビデオが凄い。「ソニータ」もこの作品もこうしたビデオ自体が作品のインパクトを強めている部分があるので、映画の評価としては「ぼくと魔法の言葉たち」をトップとしたい。アニメーションとドキュメンタリーが見事に融合しており、障害者であるにも関わらず、オーウェンの生き方から教えられることが多かった。
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