『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』(2)
- 2018.05.24 Thursday
- 19:55
ローゼンクランツと
ギルデンスターンは死んだ
National Theatre Live
5.公演情報
キャスト
ダニエル・ラドクリフ
(ギルデンスターン)
長い間ハリー・ポッターだったダニエル・ラドクリフは今、俳優として様々な新たな挑戦に挑んでいる。『エクウス』(Equus, 07)では馬の目をくり抜いて精神病院に入院させられた主人公の青年を熱演。ミュージカル・コメディ『努力しないで出世する方法』(How to Succeed in Business Without Really Trying, 11)にも出演し、ダンスと歌も披露。映画『スイス・アーミー・マン』(Swiss Army Man, 16)では何と無人島に流れ着いた腐りかけの死体の役に挑戦。遭難した主人公の青年を助け、友情を育んでいくという特異な役を怪演した。他にはボリビアのジャングルの奥地で遭難した青年を演じた『ジャングル 〜ギンズバーグ19日間の軌跡』(17, Jungle)もある。舞台でハムレットを演じるのも、そう先のことではないだろう。
ジョシュア・マグワイア
(ギルデンスターン)
ジョシュア・マグワイアは主人公の友人の役でコミカルな演技を見せることが多い。『アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜』(About Time, 13)では主人公ティム(ドーナル・グリーソン)の友人で、恋には縁遠そうなひょうきんな青年をコミカルに演じていた。現在Netflixで配信中のイギリスのテレビ・ドラマ『恋愛後遺症』(Lovesick, 18)でも、ラブ・コメディの道化的存在の役を演じている。しかしロンドンのグローブ座の舞台ではハムレットをすでに演じたことがあり、『ターナー、光に愛を求めて』(Mr. Turner, 14)では画家のジョン・ラスキンを演じるなど、意外と演技の幅は広いようだ。今後のさらなる活躍が期待される。
デヴィッド・ヘイグ (旅芸人)
1955年生まれ。主に80年代よりイギリスのテレビや舞台に登場。『われらが祖国のために』(88)ではローレンス・オリヴィエ賞男優賞を受賞。その後も『メリー・ポピンズ』(ミスター・バンクス役)、『ジョージ三世の狂気』(ジョージ三世役)などの作品でオリヴィエ賞に4回ノミネートされている。
Cast
Daniel Radcliffe (Rosencrantz)
Joshua McGuire (Guildenstern)
David Haig (The Player)
Luke Mullins (Hamlet)
Helena Wilson (Ophelia)
Wil Johnson (Claudius)
Marianne Oldham (Gertrude)
William Chubb (Polonius)
Theo Ogundipe (Horatio)
Hermeilio Miguel Aquino (Courtier)
Matthew Durkan (Alfred)
Louisa Beadel (Player)
Josie Dunn (Player)
Tim van Eyken (Player)
Evlyne Oyedokun (Player)
Alex Sawyer (Player)
演出家 デヴィッド・ルヴォー
(David Leveaux)
1957年にイギリスのレスターに生まれる。マンチェスター大学卒業後、リバーサイド・スタジオで演劇活動を始め、ユージン・オニール作『日陰者に照る月』が高く評価され、20代半ばの新進演出家として注目を集める。その後 ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーでアソシエイト・ディレクターとして『あわれ彼女は娼婦』『ロミオとジュリエット』などを演出。2003年にはミュージカル『ナイン』でトニー賞の最優秀演出家賞を受賞。トム・ストッパード作品では他に『リアル・シング』(2000)、『ジャンパーズ』(2004)、『アルカディア』(2011)を演出している。
俳優の肉体から最大限の表現力を引き出し、作品の解釈と巧みにリンクさせていくのがルヴォーの演出。日本でも門井均プロデュースによるシアター・プロジェクト・東京(tpt)の芸術監督として『テレーズ・ラカン』(1993, 読売演劇大賞受賞/再演1998)をはじめ、ベニサンピット(倉庫を改装した小劇場)で次々と刺激的な舞台を発表。数多くの俳優が彼の舞台に立ち、演技の視野を広げて実力をつけていった。当時の出演者には佐藤オリエ(『海の夫人』『ヘッダ・ガブラー』ほか最多主演)、堤真一(『チェンジリング』など)、若村麻由美(『テレーズ・ラカン』再演)などがいる。tpt以外では、宮沢りえがノラを見事に演じた『人形の家』(2008, シアターコクーン)が最も優れた舞台成果と言えるだろう。
Creative
Directed by David Leveaux
Set design: Anna Fleischle
Costumes: Flesichle and Lauren Elstein
Lighting: Howard Harrison
Sound: Fergus O’Hare
Music: Corin Buckeridge
On-stage trailer (舞台映像版予告編)
The Questions Game
(劇中のような質問ゲーム:
話を質問形式でしないと負け)
6.映画化
『ローゼンクランツと
ギルデンスターンは死んだ』
Rosencrantz & Guildenstern Are Dead
1990年イギリス映画
監督・脚色:トム・ストッパード
【出演】
ゲイリー・オールドマン(ローゼンクランツ)
ティム・ロス(ギルデンスターン)
リチャード・ドレイファス(座長)
イエイン・グレン(ハムレット)
ジョアンナ・ロス(オフィーリア)
ドナルド・サンプター(クローディアス)
ジョアンナ・マイルズ(ガートルード)
イアン・リチャードソン(ポローニアス)
ジョン・バージェス(イギリスからの使節)
撮影:ピーター・ビジウ
音楽:スタンリー・マイヤーズ
受賞:ヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞
[左] ローゼンクランツ(ゲイリー・オールドマン)
[右] ギルデンスターン(ティム・ロス)
【解説】
まず配役が面白い。若き日の二人の演技の幅の広さがうまく機能してローゼンクランツとギルデンスターンのコントラストが生まれているのだ。トム・ストッパードは当初、イライラしていて、やや押しの強いギルデンスターン役としてゲイリー・オールドマンを考えていたという。なるほどオールドマンと言えば、この映画の後にジャン・レノ(『レオン』)、ハリソン・フォード(『エア・フォースワン』)、ブルース・ウィルス(『フィフス・エレメント』)など名立たるスターを相手に、狡猾な悪役として見事な演技を披露していく事になる俳優だからだ。どちらかと言うと、飄々としたところがあるローゼンクランツでいいんだろうかと思うかもしれないが、実はローゼンクランツの方をやらせてくれと頼んだのはオールドマン本人だったという。
素朴な性格のピアニストを演じた『海の上のピアニスト』を思い出すと、むしろティム・ロスの方がローゼンクランツ向きなのてはと思ってしまうが、『レザボア・ドッグス』『ヘイトフル・エイト』などタランティーノ監督の作品にも数回出演し、ウディ・アレン監督も『世界中がアイ・ラブ・ユー』で出所したばかりのクールな強盗役として起用しているほどである。
そして座長役のリチャード・ドレイファスはニール・サイモン脚本の『グッバイ・ガール』でアカデミー賞主演男優賞を受賞しているが、この時の役が売れない役者の役。ただし妙な演出家の解釈には納得せず、憤慨するようなところは、ひたすら演劇論を語り続ける座長役にハマっている。だがドレイファスは論理的で現実的な味わいが強い俳優なので、どこからともなく現れる神秘的な一座の座長としては物足りない部分もある。1970年頃に映画化の話が持ち上がった時にはショーン・コネリーが演じる予定だったという。
リチャード・ドレイファス(座長)
劇冒頭のコインの場面は、映画では宮廷へ向かう二人が馬に乗って表を繰り返し出している。空中に投げられたコインはスローモーションでも映し出され、岩だらけの山道で繰り返し投げているうちに、その一つは岩場の下へ落ちていってしまう。他にも旅の途中で、伝令が訪れた時の「ローゼンクランツとギルデンスターン!」と叫ぶ声が突然響くなど、映画らしいイメージ・カットの挿入が映画では作品に不安な空気をもたらしている。デンマークの宮廷はユーゴスラヴィアのザグレブ郊外にある二つの城でロケされており、映画は迷宮のような本物の城でさまよう二人を城の様々な場所でカメラに収めている。この点に関してストッパードは次のように語っている。
「芝居では二人の主人公は駅のように動かず、そこをハムレットたちが通りすぎていくのだが、映画はその反対で、ローゼンクランツとギルデンスターンがエルシノア中を走り回る。エルシノアが巨大な駅で、彼らが列車になっていろいろと捜し回っているわけだ。そしていつもまずいところに入り込み、タイミングの悪い場所に出くわしてしまうのだ。」
馬でデンマーク宮廷に向う二人
ハムレットにもてあそばれる二人
部屋の裏手から役者たちの稽古を見る二人
[左] ギルデンスターン(ティム・ロス)
[右] ローゼンクランツ(ゲイリー・オールドマン)
7. 日本のローゼンクランツとギルデンスターン
(1) 笈田勝弘(ローゼンクランツ)
日下武史(ギルデンスターン)
田中明夫(座長)
1969年:劇団四季
(翻訳:倉橋健/演出:水田晴康)
(2) 矢崎滋(ローゼンクランツ)
角野卓造(ギルデンスターン)
1985年:パルコ
(翻訳:松岡和子/演出:出口典雄)
劇場:SPACE PART3
(3) 古田新太(ローゼンクランツ)
生瀬勝久(ギルデンスターン)
納谷五郎(座長)
1994年/メジャーリーグ
(演出:鵜山仁/翻訳:松岡和子)
劇場:博品館劇場
(2000年再演:シアターコクーン)
再演:1997年(座長:すまけい)
2000年(座長:加納幸和)
(4) 石橋徹郎(ローゼンクランツ)
浅野雅博(ギルデンスターン)
パペット(座長)
2015年/「ロズギル」上演委員会
(演出:鵜山仁/翻訳:平川大作)
劇場:下北沢OFF・OFFシアター
* 小劇場での1か月のロングラン公演。
完全な二人芝居で他は人形と映像で表現。
まさに虚構に飲み込まれていくロズとギル。
演出家・鵜山仁のことば(劇場配布資料より)
この人生、終着駅は「死」と定まっている。だから問題はつまり、決まった人生をどう生きるか。定まった運命にどう抗らうかが、昔ながらの有名ヒーローの役割だとするなら、不条理劇の無名ヒーロー達は、むしろ運命をどう出し抜くか、どうごますかに心をくだいているように思える。例えて言えば、同じ病気にかかっていても治療方針が違うようなものだ。積極果敢、外科手術に打って出るか、或いは何もしないか、これはそもそも人生観の違いか、演劇観の違いか…
(5) 生田斗真(ローゼンクランツ)
菅田将暉(ギルデンスターン)
半海一晃(座長)
林遣都(ハムレット)
小野武彦(クローディアス)
立石涼子(ガートルード)
松澤一之(ポローニアス)
安西慎太郎(オフィーリア/ポローニアス)
2017年/シス・カンパニー
(翻訳・演出:小川絵梨子)
劇場:世田谷パブリックシアター
生田斗真(ロズ)のボケと菅田将暉(ギル)のツッコミの演技が絶妙な味わいと笑いを引き出し、この作品が不条理劇である前に喜劇であることを証明していた舞台。劇場パンフレットのインタビューでは、菅田が自分の人生に運命のようなものをしみじみと感じているのに対して、生田は「何かのせいにするってことはないなぁ。っていうか、すぐわすれちゃうんだよね。」と話しているので、案外、素のキャラもロズ・ギルの二人かも。「人一倍“死”を恐れているギルは最後まで生きることを諦めないんです。まだ“見てろよ”って思ってる」というのは菅田将暉の弁。
<2017年オンライン映画演劇大学・英米演劇大賞>
最優秀イギリス演劇賞・優秀主演男優賞
(生田・菅田)・優秀助演男優賞(半海)受賞
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