『英国王のスピーチ』(3)

  • 2019.01.17 Thursday
  • 10:22

 

   映画で引用されるシェイクスピア

    

    講師:広川 治 <全12回

 

      講座予定(目次)

 

         第6回 

    国王のための名セリフ

    『英国王のスピーチ』

 

 序: 吃音矯正のための

    “To be or not to be

 

 1. アルバートにとっての

   “To be or not to be”

 ・自己の存在価値を前に揺れる心

 ・乳母の虐待と末弟ジョンの想い出

 ・テレビ映画『プリンス〜英国王室

   もうひとつの秘密〜』

 

 2. ライオネル・ローグにとっての

   “To be or not be”

 ・俳優志望の男として

 ・オーストラリア人として

 


 

3. ジョージ六世としての"To be or not be”

 

戴冠式を終えたジョージ六世には、新たな“To be or not be”の命題が待っていた。それはヨーロッパに勢力を広げて始めていた雄弁術に長けた独裁者ヒトラーと対峙することである。1930年代の風俗に置き換えられて映画化されたイアン・マッケラン主演の『リチャード三世』(1995)では、ナチス・ドイツそっくりの軍服や第二次大戦時と同じ軍隊や武器が使われていた。『英国王のスピーチ』も戴冠式の場面の後、アンチ・リチャード三世の物語は、アンチ・ヒトラーの物語に置き換えられている。そしてジョージ六世としての“To be or not to be”の迷いには、戦時下での「生か死か」の意味が色濃くにじんでくる。

 

ハムレットにとって “To be or not be”の行き着く先には、殺された父王の復讐を果たす決闘というものがあった。決闘を前に彼が口にする“The readiness is all.”(肝心なのは何より覚悟)という名句があるが、ジョージ六世に求められたのも、この覚悟であり、何よりも気骨を示し、国民を勇気づけることであった。そしてライオネル・ローグも、スピーチの本番では、彼を支える演出家としてマイクを挟んで王のそばに立ち、映画はクライマックスを迎える。

 

 

 

開戦のスピーチは、試練に耐え抜く覚悟が必要であると国民に訴え、戦争という究極の生と死のコントラストを浮き彫りにしている。ここにはもう二人に不満の冬はない。まだ春は訪れていないが、冬自体に不満を抱くことすら、忘れている。戦うためにはマイクからは逃げられない。苦しいが戦うしかないのだ。ここにこの映画の感動があり、英国王の重い決意の声は、ベートーヴェンの交響楽第7番第2楽章と共に響き渡る。

 

のちに実在のライオネル・ローグは国王への手紙の中で、それまでの吃音克服までの努力に対して、次のような賛辞を送っている。

 

 診察に訪れるあらたな患者には、たいてい

 「国王陛下のように話せるようになるでしょう

 か?」と問われ、こう答えます。「そうです、

 陛下のように努力を重ねればできます。

 知性あるひとならだれでも陛下のように

 努力すれば治療できます。いま、陛下は

 最初になさったきわめて困難な作業の

 果実を手にしておられるのですから。

 (マーク・ローグ、ピーター・コンラデイ

 『英国王のスピーチ 王室を救った男の記録』

  安達まみ訳、2012年、岩波書店より)

 

ここにそのジョージ六世の最後のスピーチを引用して論を締めくくりたい(起承転結の4つのパートに分けて引用)。『英国王のスピーチ』はアカデミー賞で12部門ノミネートされ、作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞(コリン・ファース)を受賞。ジェフリー・ラッシュは受賞には至らなかったが、英国アカデミー賞、全米映画批評家協会賞で助演男優賞を受賞している。

 


 

  

 

In this grave hour, perhaps the most fateful

  in our history,

I send to every household of my peoples,

  both at home and overseas,

  this message, spoken with the same depth

  of feeling

for each one of you, as if I were able to

  cross your threshold

  and speak to you myself.

 

この重大な…時… おそらく史上最も宿命的な

 時…

私の言葉を、すべての国民に送る。 

 国内と…海外にいる者たちに、

 このメッセージを 

 心からの深い思いを込めて…                     

それぞれの家の…

 戸口を開けて     

 直接、話しかけるがごとく伝えたい。  

 

For the second time in the lives of most

  of us, we are at war.

Over and over again we have tried to find

  a peaceful way out of the differences

  between ourselves and those who are

 now our enemies.

But it has been in vain.

 

多くの者にとって、2度目の経験だろう。 

 我々は… 再び戦時下に。       

何度も何度も、あきらめずに、 

 平和的な道を見つけるべく、溝を埋める

 努力が重ねられた。我々と相手国について。

 彼らは今や我々の敵である。

我々の努力は、無駄に終わった。  

 

We have been forced into a conflict,

  for we are called to meet the challenge

  of a principle, which, if it were to prevail,

  would be fatal to any civilized order in

  the world.

Such a principle, stripped of all disguise,

  is surely the mere primitive doctrine

  that might is right.

For the sake of all that we ourselves

  hold dear, it is unthinkable that we should

  refuse to meet the challenge.

 

我々は戦うことを余儀なくされた。 

 異なる主義を持つ国家の挑戦を受けたのだ。

 もしそれが勝利すれば、

 世界中のあらゆる文明秩序が

 危機に瀕する。

そのような主義から、すべての虚飾を取り払った

 なら、その本質は、ただ単に力だけが正しい

 という原始的な…ものでしかない。

我々にとって大切なものを守るため、

 その挑戦を受けて立たないことなど

 ありえない。

 

It is to this high purpose that I now call

  my people at home, and my peoples

  across the seas,

  who will make our cause their own.

I ask them to stand calm and firm and

  united in this time of trial.

The task will be hard.

There may be dark days ahead,

  and war can no longer be confined to

  the battlefield.

But we can only do the right as we see

  the right, and reverently commit our cause

  to God.

If one and all we keep resolutely faithful

  to it, then, with God's help, we shall

  prevail.

 

この高潔なる目的のため、私はここに求める。 

 国内にいる我が民  海外にいる我が民、 

 すべての国民たちよ、

 大義を抱いてほしい。

そして冷静に毅然として団結してほしい。

 試練の時を乗り切るのだ。

苦難の道だろう。

暗黒の日々が待つかもしれない

そして戦争は、

 もはや戦場だけのものではない。

我々は正しいことのため、正義を行う。

 そして敬虔(けいけん)な心で、

 我々の大義を神に捧げよう。    

もし皆が心をひとつに、大義に忠誠を誓い

 続けるなら、その時こそ、神の御力に

 よって、我々は、勝利する。 

 


 

『英国王のスピーチ』 最後のスピーチ (字幕なし)

 


 

 講座:映画の中のシェイクスピア

 第1部映画で引用されるシェイクスピア  

    講師:広川 治 <全12回

 

      講座予定(目次)

 


 

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contents

  

    演劇学部推薦公演(2018年秋期)

   

  

    映画学部推薦作品(2018年秋期)

   

  



  

オンライン映画演劇大学は映画と

演劇を幅広く紹介、解説、研究する

オンライン上の教育・文化活動です。

文部科学省の認可は受け ていませんが、実際の大学での授業と連携した情報や研究も掲載しています。

  



  

  <2〜3月の推薦作品>

  ・ 演劇学部推薦公演

  ・ 映画学部推薦作品

  



  

     <新着記事・講座>

 

New

・ オンライン映画演劇大学

     シネマグランプリ2018 が

     決定しました。

    (受賞作・受賞者の発表)

             (19/2/14)

New

・ 2018年 (第92回)

     キネマ旬報ベストテン

             (19/2/6)

New

・ 2018年 IMDb

     外国映画ベストテン

    (資料作成: 今村直樹)

             (19/2/4)

New

・ 2019年英米演劇上演予定

              (19/2/3)

New

・ 2019年洋画公開予定

   (映画賞受賞・候補作品)

             (19/2/2)

New

・ 今月の推薦作品

     (2019年2月-3月)

     を更新しました。(19/2/1)

 

New

・ National Theatre Liveの

   2019年ラインナップ

   発表されました。(19/1/20)

  

・ 講座「映画の中の

     シェイクスピア」の第6回

   国王のための名せりふ

   『英国王のスピーチ』 を

   掲載しました。(18/12/31)

 


  

 

 

 〜優秀賞の発表と選評〜

  


  

・ 2017年 IMDb

     外国映画ベストテン

    (資料作成: 今村直樹)

  




  

<過去の主要記事・講座>

  

     【シェイクスピア学科】

  

        (講師: 広川治)

・ 講座概要・予定

・ 第1回  シェイクスピアって

                 ヤバくない?

・ 第2回  恋人たちの

                 シェイクスピア

・ 第3回  軍隊で

            シェイクスピア?

・ 第4回  アクション・スター

            がハムレット

・ 第5回  俳優たちの

                 『ハムレット』

・ 第6回  国王のための

                 名せりふ

  




  

     【アメリカ演劇学科】

  

・  『エンジェルス・イン・

       アメリカ  第1部』

      (解説: 篠山芳雄)

  

・  アーサー・ミラー

  『セールスマンの死』研究

  (講師: 篠山(ささやま)芳雄)

  


  

 

  (講師: 小島真由美)

・ 講座概要

・ 作品リスト

・ 映画リスト

・ 第1回入門編

・ 第2回 『カム・ブロー・

              ユア・ホーン』

・ 第3回 『はだしで散歩』

・ 第4回 『おかしな二人』

・ 第5回

    『スウィート・チャリティ』

 原作: 映画『カビリアの夜』

          初演(1966年)

映画『スウィート・チャリティ』

                   *

・ 第6回 映画 『紳士泥棒

          大ゴールデン作戦』

・ 第7回 『星条旗娘』

・ 第8回 『プラザ・スイート』

・ 第9回 『浮気の終着駅』

・ 第10回 『ジンジャー

               ブレッド・レディ』

  




  

     【イギリス演劇学科】

  

・  ワイルド流喜劇のレシピ

      オスカー・ワイルド

      『まじめが大切』論

      (講師: 石田伸也)

  

・ テレンス・ラティガンを観る

         『深く青い海』

        (講師: 広川治)

 

・    『ローゼンクランツと

ギルデンスターンは死んだ』

      (解説: 石田伸也)

  

・   ミュージカル

    『ビリー・エリオット』

   〜英語の歌詞に見る

       団結、自由、信念〜

        (講師: 広川治)

  


  

    

      + 観劇レポートより

  




  

 【映画学部・映像文化学科】

  

・  カズオ・イシグロ

   『日の名残り』の映画化

      (講師: 篠山芳雄)

  

・ キネマ旬報ベストテン分析

      (講師: 今村直樹)

  

  <2017年夏>

     世界の映画を観る、

        映画で世界を見る

  


  

    

  




  

 (詳細な目次については

  CONTENTSページ参照)

  

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   演劇学部推薦公演

     (2019年2-3月)

  

・ 春休み推薦作品

   『ヘンリー五世』

   『ヴァージニア・ウルフ

       なんかこわくない』

   『SWEAT スウェット』

  

 映画学部推薦作品 (新作)

   

 (2017年洋画ベストテン)

  1.  ラ・ラ・ランド

      作品情報

      公式サイト

  2.  立ち去った女

      解説ページ

      公式サイト

  3.  エンドレス・ポエトリー

      公式サイト

  4.  ハクソー・リッジ

      公式サイト

  5.  ドリーム

      解説ページ

      公式サイト

  6.  新感染ファイナル・

       エクスプレス

      公式サイト

  7.  女神の見えざる手

      公式サイト

  8.  LION

       25年目のただいま

      公式サイト

  9.  おとなの事情

      公式サイト

10.  ぼくと魔法の言葉たち

      公式サイト

  


  

 (2017年公開日本映画より)

 『幼な子われらに生まれ』

     公式サイト

 『彼女がその名を

      知らない鳥たち』

     公式サイト

 『彼らが本気で

      編むときは、』

     公式サイト

   




  

 (2018年1月推薦作品)

 『クィーン  旅立つわたしの

     ハネムーン』

   1/6〜  公式サイト

 『パディントン2』

   1/19〜  公式サイト

   


  

 (2018年2月推薦作品)

 『スリー・ビルボード』

   2/1〜  公式サイト

 『グレイテスト・ショーマン』

   2/16〜  公式サイト

   


  

 (2018年3月推薦作品)

 『シェイプ・オブ・

    ウォーター』

   3/1〜  公式サイト

 『しあわせの絵の具』

   3/3〜  公式サイト

  


   

 (2018年4月推薦作品)

 『ダンガル

    きっと、つよくなる』

   4/6〜  公式サイト

 『タクシー運転手

    約束は海を越えて』

   4/21〜  公式サイト

  


  

 (2018年5月推薦作品)

 『君の名前で僕を呼んで』

   4/27〜  公式サイト

 『フロリダ・プロジェクト

     真夏の魔法』

   5/12〜  公式サイト

  


  

 (2018年6月推薦作品)

 『万引き家族』

   6/8〜  公式サイト

 『ワンダー  君は太陽』

   6/15〜  解説ページ

  


  

 (2018年7月推薦作品)

 『ブリグズビー・ベア』

   6/23〜  公式サイト

 『カメラを止めるな!』

   6/23〜  公式サイト

  


  

 (2018年8月推薦作品)

 『マンマ・ミーア!

     ヒア・ウィ・ゴー』

   8/24〜  公式サイト

 『判決、

     ふたつの希望』

   8/31〜  公式サイト

  


  

 (2018年9月推薦作品)

 『寝ても覚めても』

   9/1〜  公式サイト

 『1987、

     ある闘いの真実』

   9/8〜  公式サイト

  


  

 (2018年10月推薦作品)

 『バッド・ジーニアス』

   9/22〜  公式サイト

 『日日是好日』

   10/13〜  公式サイト

  


  

 (2018年11月推薦作品)

 『search サーチ』

   10/26〜  公式サイト

 『ボヘミアン・ラプソディ』

   11/9〜  公式サイト

  


  

 (2018年12月推薦作品)

 『パッドマン

   5億人の女性を救った男』

   12/7〜  公式サイト

 『アリー/ スター誕生』

   12/21〜  公式サイト

  


  

 (2019年1月推薦作品)

 『それだけが、僕の世界』

   12/28〜  公式サイト

 『バジュランギおじさんと、

   小さな迷子』

   1/18〜  公式サイト

  

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