『英国王のスピーチ』

  • 2018.12.31 Monday
  • 10:00

 

  シェイクスピア学科・映像文化学科共同講座

   

  

 

 第1部映画で引用されるシェイクスピア

    

    講師:広川 治 <全12回

 

      講座予定(目次)

 

 

 

         第6回 

    国王のための名セリフ

    『英国王のスピーチ』

 

   

 

 <目次>

 

 序: 吃音矯正のための

    “To be or not to be

   (引用:『ハムレット』より)

 

 1. アルバートにとっての

   “To be or not to be”

 ・自己の存在価値を前に揺れる心

 ・乳母の虐待と末弟ジョンの想い出

 ・テレビ映画『プリンス〜英国王室

   もうひとつの秘密〜』

  (引用:『ヘンリー五世』より)

 

 2. ライオネル・ローグにとっての

   “To be or not be”

 ・俳優志望の男として

  (引用:『オセロ』『リチャード三世』より)

 ・オーストラリア人として

  (引用:『テンペスト』より)

 

 3. ジョージ六世としての"To be or not to be"

 


 

   序:吃音矯正のための

     “To be or not to be”

 

映画『英国王のスピーチ』(2010)は、イギリス国王ジョージ六世(在位:1936-52年)となるアルバート(1895-1952)が、言語療法士ライオネル・ローグの助力を得て、幼い頃から患っていた吃音症を克服していく過程を実話に基づいて描いている。アルバートに扮するのは、テレビドラマ『高慢と偏見』(1995)と映画『ブリジット・ジョーンズの日記』(2001)のダーシー役や『ラブ・アクチュアリー』(2003)の作家役など、ラブ・コメディを中心に活躍していたコリン・ファース。ライオネル・ローグは、映画『シャイン』でアカデミー賞主演男優賞を受賞したオーストラリアの名優ジェフリー・ラッシュが演じている。

 

映画の冒頭、トム・フーパー監督は言葉を操るプロフェッショナルを登場させる。時は1925年、場所は大英帝国博覧会閉会式の会場、ウェンブリー・スタジアム。登場するのはスピーチを中継するために控えるBBCアナウンサーである。父王ジョージ五世の代理で演説する吃音症のアルバートと対比させるために周到に用意されたオープニングである。うがいをし、姿勢を正すといった入念な準備がアップで強調された後に、アナウンサーはヨーク公であるアルバートのスピーチが始まることを沈着冷静にマイクに語りかけて告げる。それは王室による演説の初のラジオ生中継としても注目されていたものだった。だがアルバートは大勢の聴衆が見守る中、懸命に言葉を発しようとするものの、吃音に悩む彼にとっても、聴衆にとっても、スピーチは惨澹たる結果となってしまう。

 

   

  Albert: “I have received...from His Majesty

    the...the...the...the King...”

 

効果の上がらぬ治療にうんざりしていたアルバートだったが、妻の勧めもあって、気が進まない面持ちで、言語療法士のオーストラリア人、ライオネル・ローグの診療所を訪れる。ローグはアルバートに、いくつか質問をした後、『ハムレット』の本を渡し、“To be or not to be” の独白を朗読させる。だが彼は単に読ませるのではなく、ヘッドフォンを付けてもらい、モーツァルトの音楽を聴かせながら朗読させるのである。

 

 

 Logue: “I'm going to record your voice and then

   play it back to you on the same machine.”

 

だがローグが音楽のボリュームを上げていくと、映画を観る我々もアルバート本人と同様に、朗読する声が聞こえなくなってしまい、その成果を窺い知る事はできない。

 

 

   YouTube "To be or not to be" scene

 

訳のわからないこの朗読法に苛立ったバーティは、途中でヘッドフォンをはずし、治療を断って部屋を去ろうとする。だがその際に彼はローグに呼び止められ、録音されたレコードをみやげとして受け取る。後にアルバートが自室でそのレコードをかけた時になって、彼自身も夫人も、そして朗読を観ていた我々も、それが決して吃った朗読ではなかった事を初めて知るのである。このことをきっかけにアルバートはローグの下で吃音を直していく決意を固め、彼に治療を依頼する。

 

   

   YouTube "To be or not to be" played back
 

では、なぜここで『ハムレット』のセリフの朗読なのだろうか。ハムレットの独白であるべきなのか、別の古典でもよかったのか、それが問題である。言語療法に有効な文であるように思えるのは、この有名なセリフに、シェイクスピア劇の韻文部分のセリフに独特のリズムがあるからだろう。シェイクスピアは、主に庶民のセリフには親しみやすい散文を用い、王族など高貴な身分の語りにはブランク・ヴァース(無韻詩)と呼ばれる文体を用いていた。ブランク・ヴァースとは、押韻はないものの、規則的な韻律があり、弱強のリズムが1行に5回繰り返される(弱強五歩格)のが原則である。日常の会話、ましてや演説では、言葉のリズムというものが重要なので、言語療法の教材としては適当なものと言えるだろう。

 

内容的には、このセリフが「生きるべきか死ぬべきか」と字幕でも訳されているように、思いつめた究極の迷いと苦しみの表現であることも重要である。アルバートの苦悩は、ここで復讐という父親の命令に戸惑うデンマークの王子と重ね合わされる。ハムレットが敵対したのは、父親を殺して王位に就いた叔父だったが、アルバートの場合は吃音という病、そしてその克服の先には、英国と敵対する独裁者ヒトラーがいた。

 

実際にローグが『ハムレット』を使っていたかは明らかではない。吃音症だった脚本家デヴィッド・サイドラーの発想によるものだろう。だが実はこの映画では、他の場面でもシェイクスピアの作品のセリフが引用されており、いずれも映画の主題に絡めた引用となっている。こうしたシェイクスピア作品からの引用を掘り下げながら、『英国王のスピーチ』を“To be or not to be”という観点から探っていきたい。

 


 

   1. アルバートにとっての

     “To be or not to be”

 

自己の存在価値を前に揺れる心 

本来、“To be or not to be, that is the question.”というハムレットのセリフは、シェイクスピアの劇の文脈からすれば、自殺の念に駆られている王子のセリフとして「生きるべきか、死ぬべきか」と解釈されるのが一義だろう。あるいはハムレットが復讐という行為を前にして苦しんでいる状況が強調されて、「このままでいのか、いけないのか」(1972年、小田島雄志、白水社)と翻訳されたこともある。さらに“live”ではなく“be”であることをさらに重視すれば、「在るか、それとも在らぬか」(1966年、大山俊一訳、旺文社文庫)という翻訳のように、己の存在へ疑問を呈した響きを感じ取ることもできる。

 

死んだ父王の亡霊による復讐の命令がハムレットの心に重くのしかかっていたように、アルバートも吃音が原因で王室の一員としてのアイデンティティーを失っていたばかりでなく、それに拍車をかけていたのが、父王ジョージ五世の存在だった。『英国王のスピーチ』でジョージ五世を演じているのは『ハリー・ポッター』シリーズ第3作以降のダンブルドア校長役で知られるマイケル・ガンボン。彼がアルバートに厳しくラジオ放送のスピーチの指導をする場面がある。

 

  

    ジョージ五世(マイケル・ガンボン)

 

だがこの映画で描かれているジョージ五世は息子に厳しい父王というだけではなく、近代の国王の役割を苦々しく認識していた王である。それは国王の政治的立場の変化によるものというよりは、むしろラジオというメディアの普及によるものだった。1934年、世界的な不況下にあった国民を鼓舞するクリスマスのスピーチ中継を終えたジョージ五世は、“Easy when you know how.”(コツを知れば簡単だ)と言い、息子を放送席に座らせ、演説を練習させる。字幕では「国民との絆が切れてしまうぞ。」としか訳されていないが、アルバートが原稿をきちんと読めないと、この父王は「悪魔の機械」であるマイクロフォンがあるから、とんでもないことになると言い放ち、王室の者は今では皆、役者だという自虐的な認識を披露する。(引用の翻訳はDVD字幕より)

 

   George V:  Sit up.  Straight back.  

Face boldly up to the bloody thing

and stare it square in the eye, as would

any decent Englishman.  

Show who's in command.

(背筋を伸ばして。臆せず堂々とマイクに向かえ。英国紳士らしく威厳を持って。)

 

   Albert:  Papa, I don't... think I can read

this.

(父さん、僕には…読めない。)

 

   George V:  This devilish device will

change everything if you don't.

   In the past, all the king had to do was

look respectable in uniform and not fall off

his horse.  Now, we must invade people's

homes and ingratiate ourselves with them.

This family's been reduced to those lowest,

basest of all creatures. 

We've become actors.

(国民との絆が切れてしまうぞ。

昔の王は軍姿で、馬にまたがっていればよかった。今は国民の機嫌を取らねばならん。

王室一家は最も卑しい存在となった。我々は”役者”だ。)

 

   Albert:  We're not a family.  We're a firm.

(“王室”という“会社”だよ。)

 

   George V:  Yet at any moment, some of

us may be out of work.

(失業寸前の者もいる。)

 

「失業寸前の者」とは、長男のエドワードのことである。弟よりも社交的だったが、女性との恋愛遍歴が過去にも報じられていたアルバートの兄は、アメリカ人で離婚歴のある平民のウォレス・シンプソンと恋愛関係にあり、国王の後継者として問題視されていた。その分、アルバートは期待されていて、父親が将来の責務の可能性を口にすると、アルバートはため息をもらす。コリン・ファースの繊細な演技が見事で、王室の一員として追い込まれているつらい心境が伝わってくる。「兄に代わり、お前が演説する機会が増えるぞ。」という父からのプレッシャーを前に読み始めるアルバートの朗読は、冒頭の場面以上に辛いものに見える。父親の叱責を受けて、原稿の朗読は決して長く続くことはない。

 

このように、映画はアルバートが自己の存在価値を前に揺れる心を丁寧に描いていく。自分に王位継承者の一人としての存在価値があるのか、ないのか、それが問題なのである。映画中盤で、一度王位に就いた兄エドワード八世がわずか325日で退位した後、アルバートはジョージ六世として王位を継承する。だが彼の苦悩は終わることはない。

 

    

   Albert: I'm a Naval officer. That's all I know.

      I'm not a King. I'm not a King. I'm sorry

 

ライオネル・ローグはアルバートを評して、“He's scared. He's afraid of his own shadow.”(彼は怯えている。自分自身の影が怖いんだ。)と語る。「自分自身の影」(“his own shadow”)という表現は、シェイクスピアの『ヴェニスの商人』のポーシャのセリフでも使われている。

 

  Portia:  He will fence with his own shadow.

(彼は自分の影に怯えて剣を振りかざす)

 『ヴェニスの商人』1幕2場(小田島訳)

 

ポーシャのセリフは喜劇的な場面のものであるし、ローグの表現が引用に当たるとは言えないだろう。しかし剣を振りかざしているわけではないものの、彼が抱えているストレスは剣を振りかざしたいほどの強いものだったと言える。アルバートの場合、振りかざされるのは、卑わいで乱暴な言葉を用いた怒りの爆発である。アルバートがローグの診療所を訪れ、退位しようとしていた兄に何も言い返すことができなかったと苛立って話す場面がある。彼が兄を非難する言葉を聞いて、ローグは「兄を罵倒する表現はどもっていないが、気取った堅物でも言える程度の言い方だ」とアルバートをそそのかす。するとアルバートは怒りを爆発させて、不満の叫びを張り上げながら部屋の中を歩き回るのである。上述のため息とは正反対の演技だが、感情を高ぶらせたコリン・ファースの演技が素晴らしい。自己の存在価値をまだ見出せていないにもかかわらず、次期国王への道に追い込まれている不器用な男の不満が絶妙なユーモアと共に演じられている。

 

  Albert:  Shit. Shit, Shit, Shit. Shit, Shit,

Shit, Shit, Shit, Shit!(クソッ!)

  Rogue:  Yes, defecation flows trippingly

from the tongue.(淀みなく出てくる)

  Albert:  Because I'm angry!

(怒りのせいだ!)

  Rogue:  Do you know the "f" word?

(卑わいな言葉は?)

  Albert:  Fornication?(淫行)

  Rogue:  Oh, Bertie.(バーティ)

  Albert:  Fuck.  Fuck!  Fuck, fuck, fuckin' fuck!  

Fuck, fuck and bugger!  Bugger, bugger,

buggedy, fuck!

 

ちなみに、ここでローグが言う“trippingly from the tongue”「舌から淀みなく」という表現は、『ハムレット』に似た表現がある。ハムレットは旅役者に御前で王殺しの芝居を上演させ、王位を奪った叔父クローディアスの観劇の様子を伺おうという作戦に出るが、上演前に役者たちに次のように指示している。

 

 “Speak the speech, I pray you,

  as I pronounced it to you, trippingly

  on the tongue.”

(いいな、台詞は、さっきおれが聞かせたように、自然な口調ですらすらやってくれ。)

 『ハムレット』3幕2場(小田島訳)

 

この後、ハムレットは演出家のごとく、演技と芝居の本質について語り始めるのだが、ライオネル・ローグにも、アルバートの王としての役割を演出する演出家的側面があることは否定できない。ただしこの点については、「2. ライオネル・ローグにとっての“To be or not be”」の中で改めて取り上げることにしたい。

 


 

乳母の虐待と末弟ジョンの想い出

吃音というものは一般的に幼児期の精神的状況により生まれることが多いとされている。史実によれば、アルバートも幼い頃の乳母の虐待が原因となっていたようである。父王崩御の直後、彼がローグの部屋を突然訪れる場面がある。この時二人は共にウィスキーのグラスを手にして、気兼ねなく話を始める。

 

 

 Albert:  I was informed after the fact that

   my father’s…my father’s last words were…

   “Bertie has m-more guts than the rest of

   his brothers p-put together.”

   He couldn’t say that to my face.

 

アルバートは父親の思い出や少年時代について語り始めるが、二人のやり取りは、まさにセラピストと患者の会話である。ローグは話しにくくなったら、話しにくいことは歌詞にして「スワニー・リバー」や「草競馬」のような民謡のメロディーに乗せて歌うといいと教える。最初は渋っていたアルバートだが、即位したエドワード八世に世継ぎが生まれないと、次の王は自分になると指摘され、「♪ そうはならないよ ドクター、ドクター」と「草競馬」の軽やかなリズムに乗せて心情を吐露する。話題が幼年時代におよぶと、「スワニー・リバー」の叙情的なメロディーを響かせて、辛い思い出をローグに伝える。

 

   Logue:  Who were you closest to in your

family? 

   Albert:  Nannies.  Well, not my first nanny. 

She…she loved David, hated me. 

  When we were…presented to my parents

for the daily viewing, she would…she’d pinch

me, so that I would cry and be handed back

to her immediately.  And then she would… 

   Logue:  Sing it.  

   Albert:  Then she wouldn’t feed me,

far, far away. 

 

ローグ:家族で一番親しいのは?

アルバート:乳母たち。でも最初の

 乳母は…兄を気に入り、私を嫌った。

 我々が…日課である両親への挨拶に行く時…

 彼女は私をつねる。私が泣くと…

 彼女の元に戻され… 罰として…   

ローグ:歌って。

アルバート: 私は食事をもらえない。

 

この虐待に両親は3年間も気づかなかったとアルバートは話す。次にローグは話題を末弟のジョンへと移す。末弟のジョン(愛称ジョニー)はてんかん(epilepsy)を患っていて、13歳という若さでこの世を去っていたのだった。

 

   Albert:  Johnnie...sweet boy.  

Had...epilepsy.  And he was...different.  

He died at...13.

Hidden from view. 

I'm...I'm told it's not...catching.

 

アルバート:  ジョニーは… 優しい子だった。

 てんかんで… 普通とは… 違っていた。

 13歳で世を去った。

 世間から隠されて。

 いい印象を与えないからだと。

 

ローグはジョンについてそれ以上聞くことはないし、アルバートも弟の話を続けることもない。だがアルバートは明らかに、王室という狭い世界の隅に病気が原因で閉じこめられていた弟の悲しみを自分の吃音の苦悩に重ね合わせて語っている。

 

ジョージ五世には五男一女の子供がいて、長男はエドワード八世、次男はジョージ六世(アルバート)、第三子の長女はハーウッド伯爵夫人メアリーに、三男はグロスター公爵ヘンリー王子となり、四男はケント公爵ジョージ王子となる。

 

   

  ジョージ五世の六人の子供たち

  後列左から、アルバート、メアリー、エドワード

  前列左から、ジョン、ヘンリー、ジョージ

 

ジョンは4歳の時に初めててんかんの発作を起こし、人の目に触れないように、ほとんど乳母と共にサンドリンガム・ハウス敷地内の農場で暮らしていた。サンドリガム・ハウスは現在も、イギリス王室のクリスマスの休暇地となっている離宮で、映画で描かれていたように、1932年にジョージ五世がクリスマス演説のラジオ生放送を初めて行ったのも、そして息を引き取ったのもこのノーフォーク州の別邸だった。

 

    

       ジョン王子(1905-19)

 


 

『プリンス〜英国王室 もうひとつの秘密』

このジョン王子の短い生涯を描いたBBCテレビ映画の秀作がある。The Lost Princeという2003年の作品で、日本でのテレビ放映(2007)の際の邦題は『ロスト・プリンス』。現在発売、レンタル中のDVDのタイトルは『プリンス 〜英国王室 もうひとつの秘密〜』となっており、TSUTAYA TVでも配信されている。アルバートは主要人物として登場しないが、四男のジョージとジョンの兄弟愛、乳母ララの母親のような愛情、そして第1次世界大戦を機に高まるドイツの血を引く王族への嫌悪感に悩む国王と王妃の姿などが描かれている。前・後編合計3時間の大作で、前編では、ジョン王子のてんかんの発作や、隔離に近い形で公の場に出ることを禁じられていく経緯、さらに父親ジョージ五世と遠縁にあるロシア皇帝一家との交流などの歴史的エピソードが描かれている。

 

   

   The Lost Princeより乳母とジョン王子

 

後編では、王侯貴族の華やかな時代に影が差し始め、王妃メアリー(ミランダ・リチャードソン)の不安やジョージ五世(トム・ホランダー)の苛立ちが前面に出てきている。ただし、ジョン王子は悲劇の王子というよりも、発作が時折あるにもかかわらず、田園の自然に囲まれて自由に生きた王子だったという解釈の作品で、決して悲劇の王子の物語に終わっていない。

 

 

     The Lost Princeよりジョン王子

 

英国王室では子供たちが文学作品を暗唱して披露することが多かったことも『プリンス』からは窺い知ることができる。王子たちの朗誦場面では、ジョン王子の兄ジョージが、シェイクスピアの『ヘンリー五世』のセリフを暗唱している。それは英仏戦争の最中、自ら兵を率いるヘンリー五世が戦いを前にして兵士たちを鼓舞するためのスピーチである。王はその日が聖クリスピアンの祭日であったことに重きを置いて、戦勝を予見する表現で声高々に謳い上げる。

 

「老人は忘れるだろう。だがこの日だけは彼の記憶に残り、我らの名を語るに違いない。王ハリー、エクスター… それらの名は語り継がれる、父から子へと。聖クリスピアンの日は世界の終焉まで続き、その度に思い出される…」(字幕より)

 

この場面は、まだ華麗なる王侯貴族がヨーロッパの主役だった時点のものだったので、英国王室史に残る伝説的な英雄の言葉の暗唱に聴き入る家族の表情も明るく、後編の重く沈んだ王室の空気との対照を際立たせる効果的な引用となっている。

 

この『プリンス 〜英国王室 もうひとつの秘密〜』では、『英国王のスピーチ』でジョージ五世を演じているマイケル・ガンボンが、ジョン王子の祖父であるエドワード七世に扮している。崩御する国王という点では似たような役柄だが、こちらでは孫に優しく接するおじい様のような存在として登場する。

 

    

   (上) エドワード七世(マイケル・ガンボン)

 

ジョージ五世を演じているのはトム・ホランダー。『アバウト・タイム』(2014)の劇作家役や『ボヘミアン・ラプソディ』のマネージャー役で異様な雰囲気を醸し出している俳優である。ここでは『英国王のスピーチ』のように、子供たちに厳しい態度で常に臨む国王として登場し、王位に就く際の新王の不安な表情も見せている。

 

  

    (上) ジョージ五世(トム・ホランダー)

 

そして何よりも、子供たちとの距離が遠くならざるを得ない王妃メアリーの心苦しさをミランダ・リチャードソンが好演している。ロイヤル・ファミリーの“To be or not be”の辛苦に胸を揺さぶられる、もうひとつの秀作として推薦したい。

 

  

    (上) 王妃メアリー(ミランダ・リチャードソン)

 


 

 * 続き

 

 2. ライオネル・ローグにとっての

   "To be or not be"

 ・俳優志望の男として

  (引用:『オセロ』『リチャード三世』より)

 ・オーストラリア人として

  (引用:『テンペスト』より)

 

 3. ジョージ六世としての"To be or not to be"

 


 

calendar

S M T W T F S
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930     
<< September 2019 >>

contents

  

    演劇学部推薦公演(2019年秋期)

   

  

    映画学部推薦作品(2019年秋期)

   

  



  

オンライン映画演劇大学は映画と

演劇を幅広く紹介、解説、研究する

オンライン上の教育・文化活動です。

文部科学省の認可は受け ていませんが、実際の大学での授業と連携した情報や研究も掲載しています。

  



  

   <9月の推薦作品>

  ・ 演劇学部推薦公演

  ・ 映画学部推薦作品

  



  

     <新着記事・講座>

  

New

・ 2019年 秋期

      観劇レポート対象作品

     が発表されました。

             (19/9/16)

New

・ 2019年 秋期

      映画レポート対象作品

     が発表されました。

             (19/9/15)

New

・ 2019年 IMDb

     外国映画ベストテン

    (資料作成: 今村直樹)

             (19/8/24)

Update

・ 2019年英米演劇上演予定

             (19/8/8)

 

・ 『英国万歳!』で

     朗読される

     『リア王』の名場面

     が掲載されました。

             (19/5/31)

 

・ 『英国万歳!』

   〜登場人物・物語の解説

     が掲載されました。

             (19/5/30)

 

・ ミュージカル

   She Loves Me のすべて

     が掲載されました。

             (19/5/5)

 

・ 映画学部主催の新講座

   アカデミー賞と

     アメリカ映画の歴史

     講座内容・予定が

     発表されました。

             (19/5/1)

 

・ オンライン映画演劇大学

     英米演劇大賞2018

    (受賞作・受賞者の発表)

 

・ オンライン映画演劇大学

     シネマグランプリ2018

    (受賞作・受賞者の発表)

 

・ 2018年 (第92回)

     キネマ旬報ベストテン

 

・ 2018年 IMDb

     外国映画ベストテン

    (資料作成: 今村直樹)

 


  

 

 

 〜優秀賞の発表と選評〜

  


  

・ 2017年 IMDb

     外国映画ベストテン

    (資料作成: 今村直樹)

  




  

<過去の主要記事・講座>

  

     【シェイクスピア学科】

  

        (講師: 広川治)

・ 講座概要・予定

・ 第1回  シェイクスピアって

                 ヤバくない?

・ 第2回  恋人たちの

                 シェイクスピア

・ 第3回  軍隊で

            シェイクスピア?

・ 第4回  アクション・スター

            がハムレット

・ 第5回  俳優たちの

                 『ハムレット』

・ 第6回  国王のための

                 名せりふ

・ 第7回  宇宙の彼方の

                 シェイクスピア

  




  

     【アメリカ演劇学科】

  

・  『エンジェルス・イン・

       アメリカ  第1部』

      (解説: 篠山芳雄)

  

・  アーサー・ミラー

  『セールスマンの死』研究

  (講師: 篠山(ささやま)芳雄)

  


  

 

  (講師: 小島真由美)

・ 講座概要

・ 作品リスト

・ 映画リスト

・ 第1回入門編

・ 第2回 『カム・ブロー・

              ユア・ホーン』

・ 第3回 『はだしで散歩』

・ 第4回 『おかしな二人』

・ 第5回

    『スウィート・チャリティ』

 原作: 映画『カビリアの夜』

          初演(1966年)

映画『スウィート・チャリティ』

                   *

・ 第6回 映画 『紳士泥棒

          大ゴールデン作戦』

・ 第7回 『星条旗娘』

・ 第8回 『プラザ・スイート』

・ 第9回 『浮気の終着駅』

・ 第10回 『ジンジャー

               ブレッド・レディ』

  




  

     【イギリス演劇学科】

  

・  ワイルド流喜劇のレシピ

      オスカー・ワイルド

      『まじめが大切』論

      (講師: 石田伸也)

  

・ テレンス・ラティガンを観る

         『深く青い海』

        (講師: 広川治)

 

・    『ローゼンクランツと

ギルデンスターンは死んだ』

      (解説: 石田伸也)

  

・   ミュージカル

    『ビリー・エリオット』

   〜英語の歌詞に見る

       団結、自由、信念〜

        (講師: 広川治)

  


  

    

      + 観劇レポートより

  




  

 【映画学部・映像文化学科】

  

・  カズオ・イシグロ

   『日の名残り』の映画化

      (講師: 篠山芳雄)

  

・ キネマ旬報ベストテン分析

      (講師: 今村直樹)

  

  <2017年夏>

     世界の映画を観る、

        映画で世界を見る

  


  

    

  




  

 (詳細な目次については

  CONTENTSページ参照)

  

  PageTop▲

  

   演劇学部推薦公演

    (2019年8月)

  

   ヘンリー六世 三部作

       リチャード三世

       (カクシンハン)

作: シェイクスピア

翻訳: 松岡和子

演出: 木村龍之介

主演: 河内大和、真以美

        (7/25〜8/12)

  


  

       人形の家part2

         (パルコ)

 作: ルーカス・ナス

 翻訳: 常田景子

 演出: 栗山民也

 主演: 永作博美

        (8/9〜9/1)

  


  

    ブラッケン・ムーア

          (東宝)

作:アレクシ・ケイ・

         キャンベル

翻訳: 広田敦郎

演出: 上村聡史

主演: 岡田将生、木村多江

        (8/14〜27)

  

 PageTop▲

  

 映画学部推薦作品 (新作)

  

 (2018年洋画推薦作品)

   


  

 『スリー・ビルボード』

   2/1〜  公式サイト

 『タクシー運転手

    約束は海を越えて』

   4/21〜  公式サイト

 『フロリダ・プロジェクト

     真夏の魔法』

   5/12〜  公式サイト

 『ワンダー  君は太陽』

   6/15〜  解説ページ

 『ブリグズビー・ベア』

   6/23〜  公式サイト

  


  

 『判決、

     ふたつの希望』

   8/31〜  公式サイト

 『1987、

     ある闘いの真実』

   9/8〜  公式サイト

 『バッド・ジーニアス』

   9/22〜  公式サイト

 『search サーチ』

   10/26〜  公式サイト

 『ボヘミアン・ラプソディ』

   11/9〜  公式サイト

 『アリー/ スター誕生』

   12/21〜  公式サイト

  



  

 (2019年1月推薦作品)

 『バジュランギおじさんと、

   小さな迷子』

   1/18〜  公式サイト

  


  

 (2019年2月推薦作品)

 『メリー・ポピンズ

     リターンズ』

   2/1〜  公式サイト

 『女王陛下のお気に入り』

   2/15〜  公式サイト

  


  

 (2019年3月推薦作品)

 『グリーンブック』

   3/1〜  公式サイト

 『ブラック・クランズマン』

   3/22〜  公式サイト

  


  

 (2019年4月推薦作品)

 『僕たちのラストステージ』

   4/19〜  公式サイト

 『幸福なラザロ』

   4/19〜  公式サイト

  


  

 (2019年5月推薦作品)

 『ドント・ウォーリー』

   5/3〜  公式サイト

 『僕たちは希望という

      名の列車に乗った』

   5/17〜  公式サイト

  


  

 (2019年6月推薦作品)

 『SANJU/サンジュ』

   6/15〜  公式サイト

 『パピヨン』

   6/21〜  公式サイト

  


  

 (2019年7月推薦作品)

 『COLD WAR

      あの歌、2つの心』

   6/28〜  公式サイト

 『Girl/ガール』

   7/5〜  公式サイト

  


  

 (2019年8月推薦作品)

『存在のない子供たち』

   7/20〜  公式サイト

 『シークレット・

      スーパースター』

   8/9〜  公式サイト

  

 PageTop▲

  

selected entries

categories

archives

recommend

雨に唄えば [DVD]
雨に唄えば [DVD] (JUGEMレビュー »)

A fabulous musical romance about film technology (IMDB, User Review)/A silent film production company and cast make a difficult transition to sound. (IMDb, Plot)

recommend

メリーポピンズ スペシャル・エディション [DVD]
メリーポピンズ スペシャル・エディション [DVD] (JUGEMレビュー »)

Disney's Live/Animated Masterpiece Shines More Brightly than Ever! (Ben Burgraff, IMDb Review)/In turn of the century London, a magical nanny employs music and adventure to help two neglected children become closer to their father. (IMDb Plot)

recommend

サウンド・オブ・ミュージック (字幕版)
サウンド・オブ・ミュージック (字幕版) (JUGEMレビュー »)

Beautiful. Best musical film ever. (Keith Clark, IMDb review)/A woman leaves an Austrian convent to become a governess to the children of a Naval officer widower. (IMDb Plot)

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM