『リア王』の名場面 (第4幕第7場)

  • 2019.05.30 Thursday
  • 23:55

 


 

 

      アラン・ベネット作

    『英国万歳!』で朗読される

    『リア王』の名場面

 

               石田伸也

 

 ブリテンの老王リア王は退位に際し、三人の娘に領土を分け与えようとする。長女ゴネリル、次女リーガンは言葉巧みに父親を喜ばせ、領土を手に入れる。だが正直すぎて誇張した愛情表現を嫌う末娘のコーディーリアは、王に誤解されて怒りを買い、勘当されてしまい、フランス王に嫁ぐことになる。だがいったん領土を手に入れると長女も次女も老王に非情な態度を見せ、しまいには父王を追い出してしまう。行き場を失ったリアは荒野をさまよい、人と世を恨んで発狂していく。

 

アラン・ベネット作『英国万歳!』で朗読されているのは第4幕第7場。フランス軍と共に祖国の地を再び踏んでいたコーディーリアが、発見されて医師の手当てを受けていた父親と再会する場面である。『英国万歳!』では、この場面の主要なセリフのみが朗読される。以下、カットされた部分は解説するのみに留めて原文(The Alexander Text)と翻訳を引用する。翻訳は白水社の小田島雄志訳からの引用である。

 

 

 ノッティンガム・プレイハウスの『リア王』より

 サーロウ大法官とジョージ三世

 Photo: Manuel Harlan

 


 

 

   ウィリアム・シェイクスピア作

    『リア王』(King Lear / 1605-06)

 

 

 第4幕 第7場 フランス軍の陣営

 

コーディーリア、ケント、医師が登場。コーディーリアはそれまで変装してまでも王のそばに寄り添って王を支え続けた忠臣ケントに感謝する。そしてケントにその変装のための服を脱ぎ捨ててほしいと頼む。

 

CORDELIA

 Be better suited:

 These weeds are memories of those worser

  hours:

 I prithee, put them off.

(着替えておいでなさい、

 その服は過ぎ去った不幸な時を思い出させるのみ、

 一刻も早くお脱ぎ捨てを。)

 

これに対してケントは、まだ正体を明かすことができないと彼女に事情を語る。コーディーリアは医師に父王の具合を尋ねる。

 

CORDELIA

 How does the king?

(王のご様子は?)

 

医師がよくおやすみになされていると答えると…

 

CORDELIA

 O you kind gods,

 Cure this great breach in his abused nature!

 The untuned and jarring senses, O, wind up

 Of this child-changed father!

(ああ、慈悲深い神々、

 しいたげられた父の大きな傷を癒してください、

 子供ゆえに子供に帰った父の狂い乱れた心の弦を、

 もとのように締めなおしてください。)

 

医師は“he hath slept long.”だいぶおやすみでしたから)と次のように続けて説明する。

 

DOCTOR

 Be by, good madam, when we do awake him;

 I doubt not of his temperance.

(お妃様、どうかおそばに、ただいまお起こしいたしますから。

 きっともう落ちつきをとりもどしておいでです。)

 

ここで医師の指示によって静かな音楽が流され、椅子に眠るリアが紳士と召使いたちに付き添われて登場する。変わり果てた王の姿を見て、コーディーリアは祈らずにはいられない。

 

CORDELIA

 O my dear father! Restoration hang

 Thy medicine on my lips; and let this kiss

 Repair those violent harms that my two sisters

 Have in thy reverence made!

(ああ、お父様! ご回復をうながす霊薬が

 私の唇に宿り、この口づけで、お父様のお心に

 二人の姉が加えた無惨な傷口が、もとどおり

 なおりますように。)

 

荒れ狂う嵐の夜に掘っ立て小屋で寝ていた王の姿を見てコーディーリアは「正気と共にお命まで失われなかったのが不思議」と父親の残酷な運命に心を痛める。そしていよいよ王に話しかける。

 

CORDELIA

 How does my royal lord? How fares your majesty?

(いかがです、陛下、ご気分は?)

KING LEAR

 You do me wrong to take me out o' the grave:

 Thou art a soul in bliss; but I am bound

 Upon a wheel of fire, that mine own tears

 Do scald like moulten lead.

(ひどいではないか、わしを墓から連れ出すとは。

 おまえは天国の霊魂だな、だがわしは地獄の

 炎の車に縛りつけられておる、涙を流せば

 溶けた鉛のように肌を焼くのだ。)

 

夢うつつの状態のリアは、自分がどういう境遇にあるのかも認識できていない。そしてコーディーリアが「私をごらんください」と言うと、次のように話し始める。

 

KING LEAR

 Pray, do not mock me:

 I am a very foolish fond old man,

(どうかなぶらないでくれ、

 わしは愚かな、愚かな、老人にすぎぬ。)

 

「すでに八十の坂を越えた、掛け値なしにだ。」と続けた後は…

 

 And, to deal plainly,

 I fear I am not in my perfect mind.

(それに、実を言えば、

 どうやら心を狂っておるらしい。)

 

だがリアは娘を忘れてしまったわけではない。

 

KING LEAR

 Do not laugh at me;

 For, as I am a man, I think this lady

 To be my child Cordelia.

(笑ってくれるな、わしには、

 どう考えてみても、このご婦人がわしの娘

 コーディーリアとしか思えぬ。)

CORDELIA

 And so I am, I am.

(そう、そうです、私は。)

 

こう言いながらコーディーリアは涙を抑えることができず、リアは「泣かんでくれ。毒を飲めと言うなら飲もう。わしを恨んでいるはずだ」と娘に思いを伝える。

 

DOCTOR

 Be comforted, good madam: the great rage,

 You see, is kill'd in him.

(ご安心を、お妃様、狂乱の嵐もごらんのように

 静まりました。)

 Desire him to go in; trouble him no more

 Till further settling.

(どうか奥に入るようおすすめしてください、もう少し

 落ちつかれるまで、そっとしておかれることです。)

CORDELIA

 Will't please your highness walk?

(奥へお入りになりませんか?)

 

 

 Poppy Pedder (Cordelia) with Timothy West (Lear)

 (King Lear at the Bristol Old Vic, 2016)

 Photo: Simon Annand  

 

 こうしてリアは「がまんしてくれよ、すべてを忘れ、許してくれ。わしは愚かな老人なのだ。」とコーディーリアに話しかけながら退場する。暴虐な運命の刃がその矛先を逸らしたように見えるのが場面である。だが続く第5幕では、悪党の策略によってコーディリーアは殺されてしまい、リア王は娘の死体を両手に抱えて登場し、残酷な運命を呪って叫び、息絶えて終幕となる。

 


 

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contents

  

    演劇学部推薦公演(2019年秋期)

   

  

    映画学部推薦作品(2019年秋期)

   

  



  

オンライン映画演劇大学は映画と

演劇を幅広く紹介、解説、研究する

オンライン上の教育・文化活動です。

文部科学省の認可は受け ていませんが、実際の大学での授業と連携した情報や研究も掲載しています。

  



  

   <9月の推薦作品>

  ・ 演劇学部推薦公演

  ・ 映画学部推薦作品

  



  

     <新着記事・講座>

  

New

・ 2019年 秋期

      観劇レポート対象作品

     が発表されました。

             (19/9/16)

New

・ 2019年 秋期

      映画レポート対象作品

     が発表されました。

             (19/9/15)

New

・ 2019年 IMDb

     外国映画ベストテン

    (資料作成: 今村直樹)

             (19/8/24)

Update

・ 2019年英米演劇上演予定

             (19/8/8)

 

・ 『英国万歳!』で

     朗読される

     『リア王』の名場面

     が掲載されました。

             (19/5/31)

 

・ 『英国万歳!』

   〜登場人物・物語の解説

     が掲載されました。

             (19/5/30)

 

・ ミュージカル

   She Loves Me のすべて

     が掲載されました。

             (19/5/5)

 

・ 映画学部主催の新講座

   アカデミー賞と

     アメリカ映画の歴史

     講座内容・予定が

     発表されました。

             (19/5/1)

 

・ オンライン映画演劇大学

     英米演劇大賞2018

    (受賞作・受賞者の発表)

 

・ オンライン映画演劇大学

     シネマグランプリ2018

    (受賞作・受賞者の発表)

 

・ 2018年 (第92回)

     キネマ旬報ベストテン

 

・ 2018年 IMDb

     外国映画ベストテン

    (資料作成: 今村直樹)

 


  

 

 

 〜優秀賞の発表と選評〜

  


  

・ 2017年 IMDb

     外国映画ベストテン

    (資料作成: 今村直樹)

  




  

<過去の主要記事・講座>

  

     【シェイクスピア学科】

  

        (講師: 広川治)

・ 講座概要・予定

・ 第1回  シェイクスピアって

                 ヤバくない?

・ 第2回  恋人たちの

                 シェイクスピア

・ 第3回  軍隊で

            シェイクスピア?

・ 第4回  アクション・スター

            がハムレット

・ 第5回  俳優たちの

                 『ハムレット』

・ 第6回  国王のための

                 名せりふ

・ 第7回  宇宙の彼方の

                 シェイクスピア

  




  

     【アメリカ演劇学科】

  

・  『エンジェルス・イン・

       アメリカ  第1部』

      (解説: 篠山芳雄)

  

・  アーサー・ミラー

  『セールスマンの死』研究

  (講師: 篠山(ささやま)芳雄)

  


  

 

  (講師: 小島真由美)

・ 講座概要

・ 作品リスト

・ 映画リスト

・ 第1回入門編

・ 第2回 『カム・ブロー・

              ユア・ホーン』

・ 第3回 『はだしで散歩』

・ 第4回 『おかしな二人』

・ 第5回

    『スウィート・チャリティ』

 原作: 映画『カビリアの夜』

          初演(1966年)

映画『スウィート・チャリティ』

                   *

・ 第6回 映画 『紳士泥棒

          大ゴールデン作戦』

・ 第7回 『星条旗娘』

・ 第8回 『プラザ・スイート』

・ 第9回 『浮気の終着駅』

・ 第10回 『ジンジャー

               ブレッド・レディ』

  




  

     【イギリス演劇学科】

  

・  ワイルド流喜劇のレシピ

      オスカー・ワイルド

      『まじめが大切』論

      (講師: 石田伸也)

  

・ テレンス・ラティガンを観る

         『深く青い海』

        (講師: 広川治)

 

・    『ローゼンクランツと

ギルデンスターンは死んだ』

      (解説: 石田伸也)

  

・   ミュージカル

    『ビリー・エリオット』

   〜英語の歌詞に見る

       団結、自由、信念〜

        (講師: 広川治)

  


  

    

      + 観劇レポートより

  




  

 【映画学部・映像文化学科】

  

・  カズオ・イシグロ

   『日の名残り』の映画化

      (講師: 篠山芳雄)

  

・ キネマ旬報ベストテン分析

      (講師: 今村直樹)

  

  <2017年夏>

     世界の映画を観る、

        映画で世界を見る

  


  

    

  




  

 (詳細な目次については

  CONTENTSページ参照)

  

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   演劇学部推薦公演

    (2019年8月)

  

   ヘンリー六世 三部作

       リチャード三世

       (カクシンハン)

作: シェイクスピア

翻訳: 松岡和子

演出: 木村龍之介

主演: 河内大和、真以美

        (7/25〜8/12)

  


  

       人形の家part2

         (パルコ)

 作: ルーカス・ナス

 翻訳: 常田景子

 演出: 栗山民也

 主演: 永作博美

        (8/9〜9/1)

  


  

    ブラッケン・ムーア

          (東宝)

作:アレクシ・ケイ・

         キャンベル

翻訳: 広田敦郎

演出: 上村聡史

主演: 岡田将生、木村多江

        (8/14〜27)

  

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 映画学部推薦作品 (新作)

  

 (2018年洋画推薦作品)

   


  

 『スリー・ビルボード』

   2/1〜  公式サイト

 『タクシー運転手

    約束は海を越えて』

   4/21〜  公式サイト

 『フロリダ・プロジェクト

     真夏の魔法』

   5/12〜  公式サイト

 『ワンダー  君は太陽』

   6/15〜  解説ページ

 『ブリグズビー・ベア』

   6/23〜  公式サイト

  


  

 『判決、

     ふたつの希望』

   8/31〜  公式サイト

 『1987、

     ある闘いの真実』

   9/8〜  公式サイト

 『バッド・ジーニアス』

   9/22〜  公式サイト

 『search サーチ』

   10/26〜  公式サイト

 『ボヘミアン・ラプソディ』

   11/9〜  公式サイト

 『アリー/ スター誕生』

   12/21〜  公式サイト

  



  

 (2019年1月推薦作品)

 『バジュランギおじさんと、

   小さな迷子』

   1/18〜  公式サイト

  


  

 (2019年2月推薦作品)

 『メリー・ポピンズ

     リターンズ』

   2/1〜  公式サイト

 『女王陛下のお気に入り』

   2/15〜  公式サイト

  


  

 (2019年3月推薦作品)

 『グリーンブック』

   3/1〜  公式サイト

 『ブラック・クランズマン』

   3/22〜  公式サイト

  


  

 (2019年4月推薦作品)

 『僕たちのラストステージ』

   4/19〜  公式サイト

 『幸福なラザロ』

   4/19〜  公式サイト

  


  

 (2019年5月推薦作品)

 『ドント・ウォーリー』

   5/3〜  公式サイト

 『僕たちは希望という

      名の列車に乗った』

   5/17〜  公式サイト

  


  

 (2019年6月推薦作品)

 『SANJU/サンジュ』

   6/15〜  公式サイト

 『パピヨン』

   6/21〜  公式サイト

  


  

 (2019年7月推薦作品)

 『COLD WAR

      あの歌、2つの心』

   6/28〜  公式サイト

 『Girl/ガール』

   7/5〜  公式サイト

  


  

 (2019年8月推薦作品)

『存在のない子供たち』

   7/20〜  公式サイト

 『シークレット・

      スーパースター』

   8/9〜  公式サイト

  

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