カズオ・イシグロ『日の名残り』の映画化

  • 2017.10.06 Friday
  • 23:00

 

 


 

 

              カズオ・イシグロ

       『日の名残り』の映画化

 

                篠山 芳雄

           (映画学部非常勤講師)

 

   → 小説『日の名残り』のあらすじ

 

 

 

     I was very pleased with the film…James Ivory’s The Remains of the Day which is a cousin of my The Remains of the Day but it is a different work of art.  It’s one I have a lot of affection for.1

           ―― Kazuo Ishiguro

 

  カズオ・イシグロは1999年のソルボンヌ大学での対談で、『日の名残り』(The Remains of the Day, 1989)とジェイムズ・アイヴォリー監督による映画化作品(1993)について質問され、映画化を原作と「異なる芸術作品」だが「いとこ」のようなものだと述べ、結構気に入っている旨を述べている。小説は英国を代表する文学賞であるブッカー賞を受賞し、映画『日の名残り』は数多くの観客の心をつかみ、アカデミー賞で6部門(作品・監督・主演男優・主演女優・脚色・作曲・美術・衣装デザイン)の候補になった。ここでは小説の映画化として成功例と言える映画The Remains of the Day と原作小説を比較し、その違いの間に見えてくるものを探っていきたい。

 


 

                    I

 

手紙のナレーション

小説『日の名残り』は全編、主人公の執事スティーブンスの語りで展開していくが、映画では彼の心の声を直接聞くことは一切ない。最初に観客が耳にするのは、結婚してミセス・ベンとなったミス・ケントン(以下、ミス・ケントン)からスティーブンスに宛てた手紙の形式によるナレーションである。原作では、屋敷に戻りたいという彼女の願望をスティーブンスが読み取ったこと、結婚の破綻を推察したことなどを述べられる。手紙からの言葉の短い引用はあるものの、映画のように丸ごと引用されることはない。映画冒頭、競売が開催されている元ダーリントン卿の屋敷の映像に合わせて観客の耳に届けられるミス・ケントンの手紙のナレーションは以下のようなものである。

 

Dear Mr. Stevens,

 You will be surprised to hear from me after all this time.  You’ve been in my thoughts ever since I heard that Lord Darlington had died.  [After an auctioneer’s words]

 I was very relieved to read later on how an American millionaire named Lewis had saved Darlington Hall, and that you were not to be turned out of your old home after all.  Could it possibly the same Congressman Lewis who attended His Lordship’s conference in 1936?  Oh, Mr. Stevens, I so often think of the good old days when I was the housekeeper of Darlington Hall.  It was certainly hard work, and I have certainly known butlers easier to please than our Mr. Stevens, but I remember those years with you as among the happiest of my life.2

 

ここでミス・ケントンは屋敷で働いていた時代を「人生で一番幸せな日々」と回顧している。彼女は「昔働いていたスタッフはもういないでしょう」と付け加えた後、自分の近況を以下のように伝えていく。手紙そのものが本人の声で伝えられているので、観客はミス・ケントンの心情を原作以上に理解し、彼女の感情に寄り添うことになる。

 

 My own news is not very cheerful.  In the seven years since I last wrote, I have again left my husband and, sad to say, my marriage seems to be finally over.  I’m staying with a friend who had a boarding house in Clevedon. 

 I don’t know what my future is.  Ever since Catherine, my daughter, got married last year, my life has been empty.  The years stretch before me and if only I knew how to fill them.  But I would like to be useful again.3

 

返信のナレーション

新しい屋敷の主人は、原作のファラディ氏ではなく、アメリカ人の政治家ルイス氏に変えられ、英国従来の主従関係とは異なる空気が屋敷に生まれている。スティーブンスはルイス氏に休暇を取るように勧められ、旅行に出ることになる。出発の際、彼の運転する車が屋敷を出ると、今度はスティーブンスからミス・ケントンへの返信の場面となる。出発を彼女へ伝え、現在のスタッフ不足と彼女のかつての仕事ぶりを誉める言葉など、以下のような手紙が語られる。

 

    Mrs. Benn, will you permit me once again to sing your praises?  Let me state that when you left us to get married, no housekeeper ever managed to reach your high standard in any department.  I well remember your first arrival at Darlington Hall.  You came somewhat unexpectedly, one might even say impulsively while we were dead in the middle of the Charlgrove meet.4 

 

ここで“the Charlgrove meet”というのは、屋敷近くの木立で行われるキツネ狩りの事である。実際、映像も手紙を受け取るミセス・ベンのカットから、キツネ狩りに向かう前の大勢の客人たちの場面へと変わり、カメラは自転車に乗って屋敷に到着した若き日のミス・ケントン)の姿を捉える。そして彼女の顔のアップとなり、スティーブンスとの面接場面が続く。

 

   

   
  ミス・ケントン役のエマ・トンプソン 

 

「執事の品格」の話

小説では、一日目の夜の章で、ドライブの途中で車から降りて眺めのいい場所から広大な田園風景を眺め、風景の風格の話題から「偉大な執事」や「品格」とはどういうものかと議論が続く。しかし映画では彼の語りが手紙の部分以外にはないため、こうした議論が長く語られることは一切ない。その代わりに召使たちの食卓の場面が用意され、そこでスティーブンスは若い召使の青年に「優秀な執事は品格が重要」とアドバイスを与えている。その「品格」の例として、執事であった父親の例が語られるが、原作では父親がよく話していたというインドの執事が模範とされている。父親が雇主への中傷に対してとった威厳ある態度や、戦争で兄の死をもたらした指揮官に対する彼の苦渋などは、映画では語られる事はない。

 

 

   スティーブンス役のアンソニー・ホプキンス(左)

 

編集段階でカットされた場面

次に二日目の朝での回想部分を比較してみよう。小説では、スティーブンスが忙しくてイライラしているミス・ケントンから「今後、直接声をおかけにならないで」と言われてしまう箇所がある。このやり取りは映画にはないが、実は編集段階でカットされた場面で、その映像はDVDの特典映像に収録されている。同じように、卿から頼まれたスティーブンスがレジナルドに「生命の神秘」について伝えようとする場面も、穏やかな日常風景を描いたユーモラスな場面なのだが、カットされている。同じようなユーモラスな場面でも、庭でのレジナルドとのガチョウについての会話はカットされずに本編に残されている。

 

 

   スティーブンス役のアンソニー・ホプキンス

 


 

         

 

父親の死とダーリントン卿のエピソード

フランスからの来客であるデュポン氏は、パーティの席上、ルイス氏を批判するスピーチをするが、映画では穏健なスピーチになっていたり、晩餐会の後に伯爵夫人が歌を披露する場面が付け加えられていたりと、細かい変更はあるものの、スティーブンスの老いた父親の転倒から死に至る話は、映画でも原作とほぼ同じように展開していく。ただし、倒れて部屋に横になっている父親が語る「母さんを愛せなかった」の件は、原作ではふれられていない映画独自のエピソードである。それはスティーブンスの人生も、同じように誰かを愛せない一生となるという予兆のようでもある。

 

二日目午後の部分で、スティーブンスは、旅の途中に車のラジエーターに水を入れてもらった男からダーリントン卿を知っているかと質問されるが、知らないと嘘をつく。この件について原作のスティーブンスは、「卿についてのでたらめを聞きたくないから知らないとした」と自分に言い訳をしている。映画では、旅の途中に郵便局でダーリントンの名を出すと、「ナチのシンパの?」と煙たがられ、前の持ち主の事はよく知らないととぼける場面が描かれている。

 

三日目の夜にガス欠を起こしてテイラーという夫妻の屋根裏部屋に泊めさせてもらう場面は、原作では、今はエクスターにいる長男の部屋に泊るという設定になっている。だが映画では、パブの主人のダンケルクで死んだ息子の部屋に置き換えられている。原作ではテイラー夫妻の居間に地元の人々が集まり、村の戦争の犠牲者について話が及んだ際に部屋に厳粛な空気が漂うという部分がある。だが映画では、戦争の犠牲者の部屋に戦争協力者として非難された卿の下で勤めていたスティーブンスが泊まるという皮肉に置き換えられているのである。

 

女中たちと執事たち

ユダヤ人の女中のエピソードは、映画でも二人を雇う場面も描くなど比較的丁寧に描かれている。だが二人が解雇された後にミス・ケントンの推薦で雇われるライザは、リジーという名で映画に登場する。原作が下僕の一人と駆け落ちしてしまい、置き手紙の一部が引用されているだけなのに対して、映画では、チャーリーという若い召使の青年と庭でキスをし、タバコを吸う場面もあり、チャーリーが影で「せっせと誰かに花を運んでいる」とケントンの事を皮肉まじりに話す場面や、リジーが駆け落ちでなく、結婚による退職をミス・ケントンに報告する場面も描かれている。

 

このあたりのエピソードで、たとえばミス・ケントンとの関係の決定的な転機だったかもしれないとスティーブンスが思い出す、何の本を読んでいるのか尋ねられる場面、あるいは夜のココアを飲みながらの二人の打ち合わせや、どうにも答えられないような政治的質問をスティーブンスが卿の来客に問われ、何も答えられないエピソードなどは映画でも描かれていて、アンソニー・ホプキンスとエマ・トンプソンの演技が映える場面となっている。

 

 

  エマ・トンプソンとアンソニー・ホプキンス

 

ミス・ケントンとの別れ、再会

旅の四日目の午後の回想。原作では、ミス・ケントンのがスティーブンスに結婚を報告し、「私の部屋の前を何度もばたばたと行き来してみたり、そんなことで私の気持ちを変えようとしておられますの?」などと多忙そうにしているスティーブンスに質問する。ここは映画では描かれていない。しかし、ミス・ケントンが部屋のドアの向こうで泣いていると推測するだけの原作に対して、映画ではドアの中に足を踏み入れ、実際に涙を流している彼女に近づく。だがスティーブンスはただ所要を伝える事しかできず、彼女に心を開く事なく去っていく。

 

ミス・ケントンとの再会は映画でも同じように描かれているが、その後の終わり方が原作と映画では決定的に異なる。原作では、桟橋での60代後半の男との会話をきっかけに、ファラディ様のためにジョークの練習をしてみようとスティーブンスが決意を新たにするところで終わっているが、映画ではミス・ケントンとのバス停前での別れの場面の後、場面は屋敷へと戻る。

 

屋敷に一羽の鳩が舞い込む。ルイス氏がその鳩を捕まえて窓から逃がしてやる。その窓をスティーブンスが閉め、カメラがちょうど鳩が飛んでいくかのようなアングルで屋敷を上空から捉えていく。カメラは上へ上へと引いていき、屋敷の景色がだんだんと小さくなっていくところで映画はエンディングを迎えている。自ら己の自由を束縛し、主人に仕える事を使命としてきたスティーブンスと本来彼がそうあるべき解放と自由が対比されている視覚的な映画らしいラスト・シーンとして秀逸である。

 

  

 


 

        

 

原作と映画の根本的な違い

イシグロは本論の冒頭で引用した対談の中で、原作と映画の違いについて、次のように説明している。

 

   In the movie, the relationship between the two main characters…was about emotional repression: they loved each other but they were just too repressed...in the book it’s not quite that, it’s about self-denial. 5

 

主人公の二人、スティーブンスとミス・ケントンの関係は、映画では愛の感情を抑えすぎた二人の物語となっているが、小説では自己を否定し、無にしてしまう生き方が主題だというのである。実際、冒頭から最後まで小説は、スティーブンスの語りによる執事としての人生の回顧と生き方の追究という形をとっており、読者は彼の価値観の枠組の中で人間関係を見ていく展開となっている。新しい主人であるファラディ様の冗談には冗談で応じるべきかと考え悩み、試しに言ってみるが通じないプロローグに始まり、繰り返される「偉大な執事」、「品格」の議論、再会の際にミス・ケントンの結婚生活を気にしたのも、職業上の理由からと読者に弁明するなど、すべては自分の感情や欲望を抑えた無私の執事人生の物語として語られている。

 

ところが映画では彼の心の細部を直接覗き見ることはなく、二人の抑えた恋愛感情のすれ違いを客観的に描いている。ミス・ケントンへの簡単な面接の際にも「使用人同士の結婚は誤解を招きます」と恋愛を禁じる言葉をスティーブンスは付け加えており、最初から恋愛抑圧の二人の前提がすでに示されているのである。

 

映画における視線の演技と演出

映画の場合、この二人の互いの存在を意識する様子は、アンソニー・ホプキンスとエマ・トンプソンによるデリケートな視線の演技と演出によく表れている。先に触れたミス・ケントンからの手紙のナレーションの最中には、朝食をルイス氏の部屋へ運ぼうとするスティーブンスが調理室のドアの丸い小窓から廊下を覗きこむと、そこを歩くミス・ケントンの姿が一瞬現われるという具合に。父親が間違えて出した中国の人形に関して意地を二人が張り合う場面でも、スティーブンスはドアの鍵穴から自分を待つ彼女の姿を覗き見ており、ミス・ケントンも三階の窓からスティーブンスの父親が歩く様子を二人で見下ろす場面で、一瞬、スティーブンスを強く意識した眼差しを向けている。

 

さらに、花を部屋に飾りに来て、何の本を読んでいるのかとケントンが近づいていく場面では、原作では「不自然な姿勢のまま、そっぽを向きつづけました」とあるが、映画では逆に、そっぽを向くことすらできないくらいに緊張した視線をアンソニー・ホプキンスはエマ・トンプソンに向けている。このように、言葉の代わりに相手への微妙な眼差しが二人の間の繊細な感情表現となっているところが、この映画の演出の最大のポイントとなっている。

 

こうした映画での眼差しの表現の際に視覚的表現として効果的なのが、窓の映像である。スティーブンスが屋敷の窓の外のミス・ケントンを眺めるという場面は、映画の後半、夜のココアを飲みながらの打ち合わせをやめようということにした翌日、休みをとって出かける彼女の姿を追っている場面に見られる。そしてラスト・シーンは鳩を逃がした窓を閉めるスティーブンスの場面で終わっているように、屋敷の窓というものが、彼の執事としての世界の枠組であり、その枠を越えて開放的な生き方はできないのである。

 

スティーブンスの表情

執事として表情もほとんど変えず、心の内を見せないスティーブンスのようであるが、原作でもまったく無表情なだけではなく、ファラディ様に対しては、「冗談口調に作り笑いをうかべられるようになった」とある。ユダヤ人女中二人の解雇に抗議してやめると言っていたミス・ケントンに、去年そんなこともあったと皮肉っぽく語りかける際には、「私はそう言って笑いました。」とあり、彼女に言い返されて言葉に詰まってしまう時には、「私は笑いました。笑いながら、なんと答えたものか、しばらく迷っておりました。」とバツの悪そうな笑顔を見せている。新しい女中の話をミス・ケントンがすると、いつも笑いが浮かぶと指摘され、バツの悪そうな笑顔を見せているとその場でも言われてしまっている。再会の後、ケントンを車で停留所まで送っていく際も苦笑いを指摘され、彼女の手紙の内容への心配が無用だとわかったからだと説明している。

 

では、映画のスティーブンスの表情はどうだろうか。ほとんどの場面で執事としてのまじめな無私の表情を見せているアンソニー・ホプキンスであるが、原作にあるような笑顔を見せてくれるばかりか、さらに別の人間的なスティーブンスの表情も垣間見せてくれる。たとえば、ホプキンス扮する執事は、晩餐の準備でテーブルを点検する際には、口笛を吹きながら手慣れた様子で行っており、主人の前とは異なるリラックスした表情も見せている。

 

  

 

ミセス・ベンとなったケントンに再会した時は、最初は和らいだ表情を見せているが、事情が変わって彼女が仕事ができないと知ると、彼の表情は呆然としたものに変わり、彼女との新たな人生の夕暮れを迎えるきっかけを逃したつらさを見せている。見知らぬ地元の老人から「夕方が一日で一番いい時間だ」と聞かされ、1人になってしみじみとその言葉を噛みしめる小説とは異なり、映画でこの名言をスティーブンスに伝えるのはミス・ケントンである。人々が夕方を楽しみに待つとしたら、あなたは何を楽しみに待つかと聞かれて、彼は「お屋敷へ戻り、人手不足の解決策を考えることかな」と述べる。これからも毎日仕事ばかりと作り笑いを浮かべて言うことしかできないのである。そしてラストの屋敷の窓を閉める時の表情は当然、また元の執事の世界に戻り、無私の精神を実行しているものになっている。映画のこのラスト・シーンについては、ある対談の中の原作者のコメントがあるので、最も理解しやすい解説として有用だろう。

 

The end of the movie…a huge helicopter shot…a kind of a moral helicopter…so that we can zoom out of our lives and try and see in perspective what we are doing, so that we don’t become like Stevens.6

 

  

 

我々はみな執事のようなもの

イシグロはアメリカの雑誌のインタビューの中で、「我々はみな執事のようなものだ」と述べ、小説で英国の問題や執事に関することを訴えるのが目的ではなかったという点を強調している。

 

The reason I chose a butler as a starting point was that I wanted a metaphor for this vehicle.  Most of us are like butlers because we have these small, little tasks that we learn to do, but most of us don’t attempt to run the world…  We’re like butlers.7      

 

別のインタビューでもやはり同じ主題が言及されている。

 

What I meant when I said “I think we are all butlers” was simply this: that most of us are not in positions of great power, we don’t run huge corporations…  And we do our little jobs as best we can and we take our pride and dignity from doing them well.  And we offer it to our employer…we don’t have remarkable insight, we don’t really see clearly the context in which we work and live.8

 

映画においては、ジェイムズ・アイヴォリー監督のスタッフによる見事な時代の再現もあるせいで、小説以上に英国的な風土の英国的な物語として見られてしまうのも無理はない。しかし今まで見てきたように原作小説とは異なる視点や描写があるとしても、普遍的な人間の物語として心に響くところも多く、決して遠い英国の物語の映画で終わるものではないだろう。

 

    

 

Notes

1. Brian W. Shaffer and Cynthia F. Wong, Conversations with Kazuo Ishiguro (Univ. Press of Mississippi, 2008), p.149. 

2. DVD『日の名残り』(0:01)

3. 同上(0:03)

4. 同上(0:08)

5. Shaffer and Wong, ibid, p.148.

6. Ibid, p.152.

7. Ibid, p.87.

8. Ibid, p.142.

 

参考文献

  Barry Lewis, Kazuo Ishiguro (Manchester University Press, 2000)

 Cynthia F. Wong, Kazuo Ishiguro (Second Edition, Northcote, 2006)

 Brian W. Shaffer and Cynthia F. Wong (ed.), Conversations with Kazuo Ichiguro (University of Mississippi, 2008)

 Adam Parkes, Kazuo Ishiguro's The Remains of the Day: A Reader's Guide (Continuum, 2000)

 『水声通信26/2008年9月・10月合併号/特集:カズオ・イシグロ』(水声社)

 

 


 

 

   小説『日の名残り』のあらすじ

 

プロローグ 1956年7月

物語は主人公の一人称の語りで展開していく。

 

 ここ数日来、頭から離れなかった旅行の件が、どうやら、しだいに現実のものになっていくようです。ファラディ様のあの立派なフォードをお借りして、私が一人旅をする――もし実現すれば、私はイギリスで最もすばらしい田園風景の中を西へ向かい、ひょっとしたら五、六日も、ダーリントン・ホールを離れるころになるかもしれません。(小説冒頭より/土屋政雄訳『日の名残り』、ハヤカワ文庫、2001、p. 9)

 

ダーリントン邸の老執事スティーブンスは、屋敷の新たな主となったアメリカ人のファラディ氏に仕えている。彼は主人から骨休みに旅行に出てみたらどうかと言われ、休暇をもらいコーンウォール地方への6日間の旅行に出ることにする。20年前まで屋敷で女中頭として働いていたミス・ケントンから手紙が届き、彼女との再会を決めたのである。スティーブンスには人手が足りなくなった屋敷に彼女を呼び戻したいという思いがあった。

 

一日目――夜

スティーブンスは車を運転し、ソールズベリーに到着する。そこで彼は理想的な執事だった亡き父親の事を思い出し、執事として必要な品格(dignity)について考え、「偉大なる執事」を旅の途中で彼が目にした英国の偉大な田園風景にたとえる。

 

二日目――朝

彼の回想は続く。晩年の父親の体の衰えを指摘したのは、物怖じしないで率直に何でも語るミス・ケントンだった。父親は屋敷で各国の政治家が集まった外交会議の宴会の最中に倒れて亡くなる。スティーブンスは仕事を優先して、父親の死に目にも会えなかったが、彼にとってはプロの執事としては誇れるべき行動なのだった。

 

二日目――午後

旅の途中で車が故障した際にスティーブンスは、車を直してもらったある屋敷の運転手に、ダーリントン卿に仕えていたのかと聞かれる。だが彼は否定する。

 

三日目――朝

敬愛していた主人であっただけに、ナチス・ドイツの協力者と見なされていたダーリントン卿の話題をそらしたいから否定したのだとスティーブンスは心の中で自己弁護する。

 

三日目――夜

スティーブンスは執事としてだけでなく、仕事以外の場でも感情を抑えていた。ミス・ケントンに親しみを感じていたものの、彼女との距離が接近するのを恐れ、何の感情も伝えられることはなかった。

 

四日目――午後

結婚して退職したいという相談を受けた時も、彼は祝いの言葉をそっけなく述べることしかできなかった。

 

六日目――夜

結婚してミセス・ベンとなっていたミス・ケントンとホテルの喫茶室で再会する。帰り際のバス停で、彼女から自分との別の人生も考えたこともあったと聞かされ、スティーブンスは動揺する。だが二人は互いに笑顔で別れることしかできなかった。スティーブンスがその日の夕方、一人海辺で思い出にふけっていると、ベンチに座っていた陽気な男から「黄昏時が一日で一番良い時間だ」(The evening's the best part of the day.)と持論を聞かされ、後ろを振り返るのでなく、前を向いて生きるように諭される。するとスティーブンスの心に人生という日の名残りを楽しむ気持ちが沸いてるのだった。

 


 

 

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contents

  

    演劇学部推薦公演(2019年秋期)

   

  

    映画学部推薦作品(2019年秋期)

   

  



  

オンライン映画演劇大学は映画と

演劇を幅広く紹介、解説、研究する

オンライン上の教育・文化活動です。

文部科学省の認可は受け ていませんが、実際の大学での授業と連携した情報や研究も掲載しています。

  



  

   <9月の推薦作品>

  ・ 演劇学部推薦公演

  ・ 映画学部推薦作品

  



  

     <新着記事・講座>

  

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・ 2019年 秋期

      観劇レポート対象作品

     が発表されました。

             (19/9/16)

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・ 2019年 秋期

      映画レポート対象作品

     が発表されました。

             (19/9/15)

New

・ 2019年 IMDb

     外国映画ベストテン

    (資料作成: 今村直樹)

             (19/8/24)

Update

・ 2019年英米演劇上演予定

             (19/8/8)

 

・ 『英国万歳!』で

     朗読される

     『リア王』の名場面

     が掲載されました。

             (19/5/31)

 

・ 『英国万歳!』

   〜登場人物・物語の解説

     が掲載されました。

             (19/5/30)

 

・ ミュージカル

   She Loves Me のすべて

     が掲載されました。

             (19/5/5)

 

・ 映画学部主催の新講座

   アカデミー賞と

     アメリカ映画の歴史

     講座内容・予定が

     発表されました。

             (19/5/1)

 

・ オンライン映画演劇大学

     英米演劇大賞2018

    (受賞作・受賞者の発表)

 

・ オンライン映画演劇大学

     シネマグランプリ2018

    (受賞作・受賞者の発表)

 

・ 2018年 (第92回)

     キネマ旬報ベストテン

 

・ 2018年 IMDb

     外国映画ベストテン

    (資料作成: 今村直樹)

 


  

 

 

 〜優秀賞の発表と選評〜

  


  

・ 2017年 IMDb

     外国映画ベストテン

    (資料作成: 今村直樹)

  




  

<過去の主要記事・講座>

  

     【シェイクスピア学科】

  

        (講師: 広川治)

・ 講座概要・予定

・ 第1回  シェイクスピアって

                 ヤバくない?

・ 第2回  恋人たちの

                 シェイクスピア

・ 第3回  軍隊で

            シェイクスピア?

・ 第4回  アクション・スター

            がハムレット

・ 第5回  俳優たちの

                 『ハムレット』

・ 第6回  国王のための

                 名せりふ

・ 第7回  宇宙の彼方の

                 シェイクスピア

  




  

     【アメリカ演劇学科】

  

・  『エンジェルス・イン・

       アメリカ  第1部』

      (解説: 篠山芳雄)

  

・  アーサー・ミラー

  『セールスマンの死』研究

  (講師: 篠山(ささやま)芳雄)

  


  

 

  (講師: 小島真由美)

・ 講座概要

・ 作品リスト

・ 映画リスト

・ 第1回入門編

・ 第2回 『カム・ブロー・

              ユア・ホーン』

・ 第3回 『はだしで散歩』

・ 第4回 『おかしな二人』

・ 第5回

    『スウィート・チャリティ』

 原作: 映画『カビリアの夜』

          初演(1966年)

映画『スウィート・チャリティ』

                   *

・ 第6回 映画 『紳士泥棒

          大ゴールデン作戦』

・ 第7回 『星条旗娘』

・ 第8回 『プラザ・スイート』

・ 第9回 『浮気の終着駅』

・ 第10回 『ジンジャー

               ブレッド・レディ』

  




  

     【イギリス演劇学科】

  

・  ワイルド流喜劇のレシピ

      オスカー・ワイルド

      『まじめが大切』論

      (講師: 石田伸也)

  

・ テレンス・ラティガンを観る

         『深く青い海』

        (講師: 広川治)

 

・    『ローゼンクランツと

ギルデンスターンは死んだ』

      (解説: 石田伸也)

  

・   ミュージカル

    『ビリー・エリオット』

   〜英語の歌詞に見る

       団結、自由、信念〜

        (講師: 広川治)

  


  

    

      + 観劇レポートより

  




  

 【映画学部・映像文化学科】

  

・  カズオ・イシグロ

   『日の名残り』の映画化

      (講師: 篠山芳雄)

  

・ キネマ旬報ベストテン分析

      (講師: 今村直樹)

  

  <2017年夏>

     世界の映画を観る、

        映画で世界を見る

  


  

    

  




  

 (詳細な目次については

  CONTENTSページ参照)

  

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   演劇学部推薦公演

    (2019年8月)

  

   ヘンリー六世 三部作

       リチャード三世

       (カクシンハン)

作: シェイクスピア

翻訳: 松岡和子

演出: 木村龍之介

主演: 河内大和、真以美

        (7/25〜8/12)

  


  

       人形の家part2

         (パルコ)

 作: ルーカス・ナス

 翻訳: 常田景子

 演出: 栗山民也

 主演: 永作博美

        (8/9〜9/1)

  


  

    ブラッケン・ムーア

          (東宝)

作:アレクシ・ケイ・

         キャンベル

翻訳: 広田敦郎

演出: 上村聡史

主演: 岡田将生、木村多江

        (8/14〜27)

  

 PageTop▲

  

 映画学部推薦作品 (新作)

  

 (2018年洋画推薦作品)

   


  

 『スリー・ビルボード』

   2/1〜  公式サイト

 『タクシー運転手

    約束は海を越えて』

   4/21〜  公式サイト

 『フロリダ・プロジェクト

     真夏の魔法』

   5/12〜  公式サイト

 『ワンダー  君は太陽』

   6/15〜  解説ページ

 『ブリグズビー・ベア』

   6/23〜  公式サイト

  


  

 『判決、

     ふたつの希望』

   8/31〜  公式サイト

 『1987、

     ある闘いの真実』

   9/8〜  公式サイト

 『バッド・ジーニアス』

   9/22〜  公式サイト

 『search サーチ』

   10/26〜  公式サイト

 『ボヘミアン・ラプソディ』

   11/9〜  公式サイト

 『アリー/ スター誕生』

   12/21〜  公式サイト

  



  

 (2019年1月推薦作品)

 『バジュランギおじさんと、

   小さな迷子』

   1/18〜  公式サイト

  


  

 (2019年2月推薦作品)

 『メリー・ポピンズ

     リターンズ』

   2/1〜  公式サイト

 『女王陛下のお気に入り』

   2/15〜  公式サイト

  


  

 (2019年3月推薦作品)

 『グリーンブック』

   3/1〜  公式サイト

 『ブラック・クランズマン』

   3/22〜  公式サイト

  


  

 (2019年4月推薦作品)

 『僕たちのラストステージ』

   4/19〜  公式サイト

 『幸福なラザロ』

   4/19〜  公式サイト

  


  

 (2019年5月推薦作品)

 『ドント・ウォーリー』

   5/3〜  公式サイト

 『僕たちは希望という

      名の列車に乗った』

   5/17〜  公式サイト

  


  

 (2019年6月推薦作品)

 『SANJU/サンジュ』

   6/15〜  公式サイト

 『パピヨン』

   6/21〜  公式サイト

  


  

 (2019年7月推薦作品)

 『COLD WAR

      あの歌、2つの心』

   6/28〜  公式サイト

 『Girl/ガール』

   7/5〜  公式サイト

  


  

 (2019年8月推薦作品)

『存在のない子供たち』

   7/20〜  公式サイト

 『シークレット・

      スーパースター』

   8/9〜  公式サイト

  

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