『エンジェルス・イン・アメリカ』

  • 2018.01.30 Tuesday
  • 22:55

 

   エンジェルス・イン・アメリカ

     第1部 至福千年紀が近づく

 

          National Theatre Live

 

  

 

  今回の再演:2017年5月〜8月

         (Lyttelton Theatre, National)

  作:トニー・クシュナー

  原題:Angels in America, Part 1

      A Gay Fantasia on National Themes

  演出:マリアンヌ・エリオット

  出演:アンドリュー・ガーフィールド

     ネイサン・レイン

  上映期間:2/2 (金) 〜8 (木)

  上映時間:4時間(15分休憩2回)

  ※第2部は3/16(金) 〜22(木)に上映

  上映館:TOHOシネマズ日本橋/川崎ほか

 

 <目次>

 1.  作品解説

 2.  登場人物/物語

 3.  公演情報(キャスト)

 4.  日本での上演とアメリカのテレビ映画

 


 

 

      1.作品解説

 

『エンジェルス・イン・アメリカ』は1990年代のアメリカ演劇を代表する傑作と言える。90年代でトニー賞とピューリッツァー賞を同時に受賞したのは、ニール・サイモンの『ヨンカーズ物語』と本作のみである。エイズに苦しむ80年代のニューヨークのゲイたちと、彼らの恋人や家族の愛と悲哀を幻想とユーモアを織り交ぜて巧みに描き、人間の苦悩の根源に迫っている。

 

原題には「国家的テーマに関するゲイ・ファンタジア」(A Gay Fantasia on National Themes)という副題がついている。「国家的テーマ」というのは、アメリカという国が抱えている民族、宗教、政治など様々なテーマという意味である。しかし初演から30年近く、そして2000年から18年経った今、日本人も「全人類的テーマ」として、より身近な問題として認識できるかもしれない。

 

作品は第1部「至福千年紀が近づく」と第2部「ペレストロイカ」の2部構成。しかし登場人物たちの苦悩が描かれていく第1部で物語は完結していないし、作品の本質とメッセージを真に理解するためには第2部を観る必要がある。『エンジェルス・イン・アメリカ 第2部』には、世界の未来への議論、夢、希望も描かれている。副題の「ファンタジア」が本格的に始まるのは第2部。第1部も幽霊の登場などの超現実的な場面が多いが、第2部では天使によって天国へ連れて行かれたゲイの一人が、天国に留まるか、地上に戻るかの選択を迫られる場面まで用意されている。

 

シェイクスピアの晩年の作品に『冬物語』という悲喜劇があり、前半が悲劇で冬に相当し、後半が再生と和解の春の喜劇となっているが、この『冬物語』に例えて言えば『エンジェルス・イン・アメリカ』の第1部は冬であり、第2部は春に近い。第1部の冬の寒さを肌で感じるだけではもったいない。第2部では壮絶な春の嵐も吹くものの、大胆かつユーモラスな世界を通り抜け、固い冬芽が芽吹き始めるのだから。(篠山芳雄)

 


 

 

     2.登場人物/物語

 

第1部では、ゲイのカップルのエピソード、ゲイの男とその妻のエピソード、さらにロイ・コーンという悪辣な弁護士という3つのエピソードが入れ替わりながら、時に交錯して展開していく。以下がその主要な3つのエピソードの登場人物である。

 

プライアーとルイス+ベリーズ

 ルイスは控訴裁判所に勤めるワープロ係。彼はユダヤ人のゲイ(作者のクシュナーも同じ)で、パートナーのプライアと同棲している。プライアーはエイズに侵されていることをルイスに告白する(第1幕:悪い知らせ)。プライアーの病状は悪化し、不安と絶望に打ちのめされたルイスは彼の元を去る。だがルイスは自責の念に苦しむ事になる。プライアーの病室に元恋人の黒人ベリーズが訪ねてくる。プライアーは不思議な声が聞こえてくるとベリーズに話す(第2幕:試験管の中)。不思議な事は繰り返しプライアーの身に起こる。祖先の幽霊が二人、繰り返し彼の前に現れる。そしてラストでは“天使”が降臨する(第3幕:まだ無意識だが前進の夜明け)。

 

   

  (上) ルイス(ジェームズ・マッカードル)とプライアー

  (下) プライアー(アンドリュー・ガーフィールド)  

   Photo by Helen Maybanks

 

 

 

ジョーと妻ハーパー

ジョーはモルモン教徒でルイスと同じ裁判所の書記官。彼は上司のロイ・コーンから司法省のポストの話を持ちかけられる。だがジョーの妻ハーパーは夫の栄転であるにも関わらずワシントン行きを拒む。夫婦の関係は冷え切っており、ハーパーは孤独と夫への不満が原因で薬物依存症になって引きこもっていた。ある時、ジョーは職場のトイレでルイスの泣いている姿を見かけ、話しかける。ルイスはジョーがゲイであると見抜いて、彼の頬にキスをしてその場を立ち去る(第1幕)。ジョーはこのキスがきっかけで、苦しみ、迷いながらも自分がゲイであるという事実を強く意識し始める。彼は故郷にいる母親に自分がゲイであることを告白する(第2幕)。これを聞いた母親ハンナはニューヨークに上京する。一方でハーパーは幻想の中で南極を旅している。舞台にはエスキモーまで現れる。互いに苦悩するジョーとルイスは、夜の公園で再会し… (第3幕)。

 

     

  (上) ジョー(ラッセル・トービー)

  (下) ハーパー(デニス・ゴフ)とエスキモー

   Photo by Helen Maybanks

 

 

ロイ・コーン (ジョーの上司)

ロイ・コーンは実在した悪名高い弁護士(1927-86)である。反共産主義者と思しき者を次々と摘発、弾圧した1950年代初頭の赤狩りの際にはマッカーシー上院議員の右腕だった。冷戦中には原爆製造などの機密情報をソ連に提供した罪で逮捕されたローゼンバーグ夫妻を強引に死刑に追い込んだ検察官だった。第3幕ではエセル・ローゼンバーグの幽霊が現れる。ただし、夫妻が本当にソ連のスパイであった事は90年代の終わりに暗号文書解読から証明された。『エンジェルス・イン・アメリカ』の初演の1991年の時点では、この事実は明らかになっていない。劇中ではジョーを司法省へ送り込み、非倫理的行為によって弁護士資格を剥奪されそうになっている事態を内部から操作させようとする。ゲイであることは公けにしていなかったが、ロイは第1幕で主治医からエイズであると宣告される。

 

   

    ロイ・コーン(ネイサン・レイン)

     Photo by Helen Maybanks

 


 

 

      3.公演情報

 

 作:トニー・クシュナー (Tony Kushner)

    戯曲『ホームバディ/カブール』

      (アフガニスタンが舞台)

    映画脚本『ミュンヘン』

     (監督:スティーブン・スピルバーグ)

 初演:1991年(ブロードウェイ初演1993年)

 今回の再演:2017年5月〜8月

      (Lyttelton Theatre, National)

 演出:マリアンヌ・エリオット

    〜『戦火の馬』(07)

     『夜中に犬に起こった奇妙な事件』(12)

 

【CAST】

 Andrew Garfield

 …Prior Walter (who suffers from AIDS)

 James McArdle

 …Louis Ironson (Prior’s partner)

 Nathan Stewart-Jarrett

 …Belize (Prior’s ex-partner)

 Russell Tovey…Joseph (Joe) Pitt

 Denise Gough…Harper Pitt (Joe’s wife)

 Susan Brown…Hannah Pitt (Joe’s mother)

 Nathan Lane…Roy Cohn (Joe’s boss)

 Amanda Lawrence…The Angel

 

  公式サイト (ナショナル・シアター・ライヴ)

 日本版予告編、上映館タイム・テーブル等掲載

 

 

  ハーパーとプライアー

  第2部「ペレストロイカ」より

   Photo by Helen Maybanks

 


 

 

 4.日本での上演とアメリカのテレビ映画

 

『エンジェルス・イン・アメリカ』は1994年に銀座セゾン劇場で第1部が、翌年に1部と2部が連続上演されている。この時は下のキャスト表で分かるように、実力派を集めた豪華キャストだったが、アメリカの社会事情に関するこちらの勉強不足もあって"f**k"という言い方がやたらと繰り返される現代劇に馴染めなかった。

 

▶『エンジェルス・イン・アメリカ』

  (銀座セゾン劇場/1994-95)

  訳=吉田美枝

  演出=ロバート・アラン・アッカーマン

  <キャスト>

  高橋和也=プライアー

  小須田康人=ルイス

  天宮良=ベリーズ(プライアーの元恋人)

  堤真一=ジョー

  余貴美子=ハーパー

  佐藤オリエ=ハンナ(ジョーの母親)

  宝田明=ロイ・コーン

  麻美れい=天使

 

次にtpt (Theater Project Tokyo)が日本初演と同じロバート・アラン・アッカーマンの演出で2004年に上演(ベニサン・ピット/中川安奈=ハーパー)したが、この舞台が演劇ファンの間で評判となるほどの出色の出来ばえだった。特にハーパー役の中川安奈(1988-2014)の不機嫌で時に呆然としたような表情が忘れがたい。山本亨(アル・パチーノのようなドスのきいた低い声が凄い!)が演じたロイ・コーンの最期も恐ろしいほどの迫力だったし、倉庫を改造したベニサン・ピットの小空間が観客と『エンジェルス〜』の世界の距離を見事に縮めていた。tptはその後もスタッフ、キャストを変え、繰り返し上演している。

 

▶『エンジェルス・イン・アメリカ』

  (tpt/2004/劇場:ベニサンピット)

  翻訳=薛珠麗

  演出=ロバート・アラン・アッカーマン

  <主なキャスト>

  斉藤直樹=プライアー

  池下重大=ルイス

  矢内文章=ベリーズ

  朴昭熙(パク・ソヒ)=ジョー

  中川安奈=ハーパー

  松浦佐知子=ハンナ

  山本亨=ロイ・コーン

 

アメリカでは2003年に全6話のミニ・シリーズとしてテレビ映画化されている。アル・パチーノ、メリル・ストリープ、エマ・トンプソンが顔を揃えたこのテレビ版は日本ではWOWOWで2004年に放送され、DVDも発売された。

 

▶『エンジェルス・イン・アメリカ』

  (2003/HBO)

  監督=マイク・ニコルズ

  脚本=トニー・クシュナー

  *ゴールデン・グローブ賞作品賞受賞

    (テレビ部門)

 

   <キャスト>

   アル・パチーノ…ロイ・コーン

   

 

   メリル・ストリープ

   …ジョーの母親ハンナ

    ローゼンバーグ夫人の亡霊など

   

   

   エマ・トンプソン…天使など

   

   ジャスティン・カーク…プライアー

   ベン・シェンクマン…ルイス

   ジェフリー・ライト…ベリーズ

   パトリック・ウィルソン…ジョー

   メアリー・L・パーカー…ハーパー

 

 


 

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contents

  

    演劇学部推薦公演(2019年秋期)

   

  

    映画学部推薦作品(2019年秋期)

   

  



  

オンライン映画演劇大学は映画と

演劇を幅広く紹介、解説、研究する

オンライン上の教育・文化活動です。

文部科学省の認可は受け ていませんが、実際の大学での授業と連携した情報や研究も掲載しています。

  



  

   <9月の推薦作品>

  ・ 演劇学部推薦公演

  ・ 映画学部推薦作品

  



  

     <新着記事・講座>

  

New

・ 2019年 秋期

      観劇レポート対象作品

     が発表されました。

             (19/9/16)

New

・ 2019年 秋期

      映画レポート対象作品

     が発表されました。

             (19/9/15)

New

・ 2019年 IMDb

     外国映画ベストテン

    (資料作成: 今村直樹)

             (19/8/24)

Update

・ 2019年英米演劇上演予定

             (19/8/8)

 

・ 『英国万歳!』で

     朗読される

     『リア王』の名場面

     が掲載されました。

             (19/5/31)

 

・ 『英国万歳!』

   〜登場人物・物語の解説

     が掲載されました。

             (19/5/30)

 

・ ミュージカル

   She Loves Me のすべて

     が掲載されました。

             (19/5/5)

 

・ 映画学部主催の新講座

   アカデミー賞と

     アメリカ映画の歴史

     講座内容・予定が

     発表されました。

             (19/5/1)

 

・ オンライン映画演劇大学

     英米演劇大賞2018

    (受賞作・受賞者の発表)

 

・ オンライン映画演劇大学

     シネマグランプリ2018

    (受賞作・受賞者の発表)

 

・ 2018年 (第92回)

     キネマ旬報ベストテン

 

・ 2018年 IMDb

     外国映画ベストテン

    (資料作成: 今村直樹)

 


  

 

 

 〜優秀賞の発表と選評〜

  


  

・ 2017年 IMDb

     外国映画ベストテン

    (資料作成: 今村直樹)

  




  

<過去の主要記事・講座>

  

     【シェイクスピア学科】

  

        (講師: 広川治)

・ 講座概要・予定

・ 第1回  シェイクスピアって

                 ヤバくない?

・ 第2回  恋人たちの

                 シェイクスピア

・ 第3回  軍隊で

            シェイクスピア?

・ 第4回  アクション・スター

            がハムレット

・ 第5回  俳優たちの

                 『ハムレット』

・ 第6回  国王のための

                 名せりふ

・ 第7回  宇宙の彼方の

                 シェイクスピア

  




  

     【アメリカ演劇学科】

  

・  『エンジェルス・イン・

       アメリカ  第1部』

      (解説: 篠山芳雄)

  

・  アーサー・ミラー

  『セールスマンの死』研究

  (講師: 篠山(ささやま)芳雄)

  


  

 

  (講師: 小島真由美)

・ 講座概要

・ 作品リスト

・ 映画リスト

・ 第1回入門編

・ 第2回 『カム・ブロー・

              ユア・ホーン』

・ 第3回 『はだしで散歩』

・ 第4回 『おかしな二人』

・ 第5回

    『スウィート・チャリティ』

 原作: 映画『カビリアの夜』

          初演(1966年)

映画『スウィート・チャリティ』

                   *

・ 第6回 映画 『紳士泥棒

          大ゴールデン作戦』

・ 第7回 『星条旗娘』

・ 第8回 『プラザ・スイート』

・ 第9回 『浮気の終着駅』

・ 第10回 『ジンジャー

               ブレッド・レディ』

  




  

     【イギリス演劇学科】

  

・  ワイルド流喜劇のレシピ

      オスカー・ワイルド

      『まじめが大切』論

      (講師: 石田伸也)

  

・ テレンス・ラティガンを観る

         『深く青い海』

        (講師: 広川治)

 

・    『ローゼンクランツと

ギルデンスターンは死んだ』

      (解説: 石田伸也)

  

・   ミュージカル

    『ビリー・エリオット』

   〜英語の歌詞に見る

       団結、自由、信念〜

        (講師: 広川治)

  


  

    

      + 観劇レポートより

  




  

 【映画学部・映像文化学科】

  

・  カズオ・イシグロ

   『日の名残り』の映画化

      (講師: 篠山芳雄)

  

・ キネマ旬報ベストテン分析

      (講師: 今村直樹)

  

  <2017年夏>

     世界の映画を観る、

        映画で世界を見る

  


  

    

  




  

 (詳細な目次については

  CONTENTSページ参照)

  

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   演劇学部推薦公演

    (2019年8月)

  

   ヘンリー六世 三部作

       リチャード三世

       (カクシンハン)

作: シェイクスピア

翻訳: 松岡和子

演出: 木村龍之介

主演: 河内大和、真以美

        (7/25〜8/12)

  


  

       人形の家part2

         (パルコ)

 作: ルーカス・ナス

 翻訳: 常田景子

 演出: 栗山民也

 主演: 永作博美

        (8/9〜9/1)

  


  

    ブラッケン・ムーア

          (東宝)

作:アレクシ・ケイ・

         キャンベル

翻訳: 広田敦郎

演出: 上村聡史

主演: 岡田将生、木村多江

        (8/14〜27)

  

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 映画学部推薦作品 (新作)

  

 (2018年洋画推薦作品)

   


  

 『スリー・ビルボード』

   2/1〜  公式サイト

 『タクシー運転手

    約束は海を越えて』

   4/21〜  公式サイト

 『フロリダ・プロジェクト

     真夏の魔法』

   5/12〜  公式サイト

 『ワンダー  君は太陽』

   6/15〜  解説ページ

 『ブリグズビー・ベア』

   6/23〜  公式サイト

  


  

 『判決、

     ふたつの希望』

   8/31〜  公式サイト

 『1987、

     ある闘いの真実』

   9/8〜  公式サイト

 『バッド・ジーニアス』

   9/22〜  公式サイト

 『search サーチ』

   10/26〜  公式サイト

 『ボヘミアン・ラプソディ』

   11/9〜  公式サイト

 『アリー/ スター誕生』

   12/21〜  公式サイト

  



  

 (2019年1月推薦作品)

 『バジュランギおじさんと、

   小さな迷子』

   1/18〜  公式サイト

  


  

 (2019年2月推薦作品)

 『メリー・ポピンズ

     リターンズ』

   2/1〜  公式サイト

 『女王陛下のお気に入り』

   2/15〜  公式サイト

  


  

 (2019年3月推薦作品)

 『グリーンブック』

   3/1〜  公式サイト

 『ブラック・クランズマン』

   3/22〜  公式サイト

  


  

 (2019年4月推薦作品)

 『僕たちのラストステージ』

   4/19〜  公式サイト

 『幸福なラザロ』

   4/19〜  公式サイト

  


  

 (2019年5月推薦作品)

 『ドント・ウォーリー』

   5/3〜  公式サイト

 『僕たちは希望という

      名の列車に乗った』

   5/17〜  公式サイト

  


  

 (2019年6月推薦作品)

 『SANJU/サンジュ』

   6/15〜  公式サイト

 『パピヨン』

   6/21〜  公式サイト

  


  

 (2019年7月推薦作品)

 『COLD WAR

      あの歌、2つの心』

   6/28〜  公式サイト

 『Girl/ガール』

   7/5〜  公式サイト

  


  

 (2019年8月推薦作品)

『存在のない子供たち』

   7/20〜  公式サイト

 『シークレット・

      スーパースター』

   8/9〜  公式サイト

  

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