英米演劇大賞2017

  • 2018.03.02 Friday
  • 23:30

オンライン映画演劇大学では、英米演劇大賞を設けて、シェイクスピア学科、イギリス演劇学科、アメリカ演劇学科の3つの視点から、優れた英米戯曲の上演や演技、スタッフを賞の形で記録に残しています。2017年の英米演劇大賞は2017年の1月から12月に首都圏で上演された英米の劇作家の翻訳劇を対象にしています。ここに各部門の優秀賞、および最優秀賞を発表したいと思います。

選考には先生方の御意見のほか、私が兼任講師として出講している大学の学生の率直な感想、劇評(観劇レポート)も一部反映されています(法政、早稲田、日大芸術学部、駒澤、鶴見、恵泉女学園大学)。観劇レポートは貴重な記録として抜粋を2017年観劇レポートと劇評よりのページで紹介しています。前年度の受賞作品、受賞者については英米演劇大賞2016を、映画に関してはシネマグランプリ2017をご覧下さい。(2018年3月2日・広川治)


 

 

オンライン映画演劇大学

 英米演劇大賞2017

〜2017年上演舞台より〜

 

 

 <各部門の最優秀賞一覧> 

 各部門では最優秀賞(グランプリ)の他にも、

 優秀賞として公演や俳優が選出されています。

 各賞の名前のリンクから優秀賞と選評をご覧

 下さい。

 

【大賞】

  『プライムたちの夜』(新国立劇場)

シェイクスピア賞】 

  『タイタス・アンドロニカス』(カクシンハン)

イギリス演劇賞

  『ローゼンクランツとギルデンスターンは

   死んだ』(シス・カンパニー)

アメリカ演劇賞

  『プライムたちの夜』(新国立劇場)

 

翻訳家賞】 

    常田景子

   (プライムたちの夜/夢一夜/ビリー・エリオット)

演出家賞 

    シルヴィウ・プルカレーテ(リチャード三世)

 

主演男優賞】 温水洋一(管理人)

主演女優賞 浅岡ルリ子(プライムたちの夜)

 

助演男優賞】 横堀悦夫(夢一夜)

助演女優賞】 鈴木杏(欲望という名の電車)

 

オンライン映画演劇大学・名誉賞

▶宮田慶子 〜新国立劇場芸術監督としての功績に対して

▶中嶋しゅう 〜生前の存在感ある名演に敬意と感謝をこめて

 

スタッフ賞

 上演に大きく貢献した美術、衣装、照明、演奏などの成果から、優秀賞14人が選ばれています。それぞれ分野が異なるので、この部門では最優秀賞の選出はありません。

 

【特別賞】

  ▶『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー〜』の卓越した公演成果に対して

  ▶『十二人の怒れる男』(俳優座劇場)の12人(塩山誠司、岸槌隆至、青木一宣、瀬戸口郁、渡辺聡、山本健翔、古川龍太、原康義、金内喜久夫、柴田義之、米山実、溝口敦士)にアンサンブル演技賞として

National Theatre Live Award

  Carrie Cracknell (The Deep Blue Seaの演出)

  James Corden (One Man, Two Guvnorsの演技)

 

 → 英米演劇大賞最終候補作一覧

 

以下が各部門の優秀賞と最優秀賞(赤の表記)一覧です。 

   


 

  【シェイクスピア賞】  

 『タイタス・アンドロニカス』(カクシンハン)

 『アテネのタイモン』(彩の国さいたま芸術劇場)

 『リチャード三世』(東京芸術劇場)

 

選評

カクシンハンの『タイタス・アンドロニカス』はX-JAPAN、『ラ・ラ・ランド』など、ポップな音楽とダンス、縛り首のように天井から吊るされた椅子などの抽象的な装置、といった具合に様々な趣向で既成のシェイクスピアのイメージを壊してみせた。登場人物が穴に落ちた場面で丸い輪を穴に見立て、観客に向って横から覗いているのに上から覗き込んでいるような演技をしたり、黒人のアーロンをラッツ&スターと呼んでみたりというように、遊び心にあふれた新世代のシェイクスピアだった。脱線を繰り返しながらも、最後にはシェイクスピアの用意したクライマックスへすべてを昇華させていく演出が素晴らしい。2014年に上演した『仁義なきタイタス・アンドロニカス』よりも格段にスケールもレベルもアップした舞台に仕上がっていた。特に、いつもながら野性味あふれる河内大和(タイタス)とサターナイナスを演じた怪女優のぐち和美の演技に見応えがあった(助演女優賞受賞)。ユージ・レルレ・カワグチのドラムの生演奏も迫力があり(スタッフ部門で優秀賞受賞)、残酷な復讐劇の狂乱を激しく表現していた。

 

「アテネのタイモン』は人生の転落の悲劇を吉田鋼太郎が蜷川流にダイナミックに演出していた。上演機会の少ないマイナーなシェイクスピア作品を初めて本格的に上演した成果という意味でも貴重な収穫だった。シルヴィウ・プルカレーテ台本・演出の『リチャード三世』は悪夢のような2時間半だった。人間の邪心と残忍さがもたらす、血と死の光景を斬新に描いた台本。それはシェイクスピア劇の枠を越えたグロテスク劇の極致として衝撃的な舞台だった。最優秀賞に値する舞台なのだが、ここはプルカレーテの演出家としての手腕を高く評価して、演出家賞の方で最優秀演出家賞として表彰したい。

 

 シェイクスピア劇の劇評・観劇レポートの抜粋は

 → 2017年観劇レポートと劇評よりのページへ

 


 

 【イギリス演劇賞】  

 『リトル・ヴォイス』(ホリプロ)

   ジム・カートライト作

 『怒りをこめてふり返れ』(新国立劇場)

   ジョン・オズボーン作

 『ローゼンクランツとギルデンスターンは

   死んだ』(シス・カンパニー)

   トム・ストッパード作

 『管理人』(世田谷パブリックシアター)

   ハロルド・ピンター作

 

選評

『リトル・ヴォイス』は、部屋で亡き父親が残したLPレコードを聴いてばかりいる無口でシャイな女の子が主人公。ある晩、部屋で一人歌っていた“Over the Rainbow”の美しい歌声が注目され、人前で歌う機会を得る。しかしよくある歌手の成功物語ではなく、むしろ苦い経験と歌の力によるヒロインの成長が描かれていく作品である。歌手である大原櫻子の舞台をちょっと観てみたいという程度のきっかけで、劇場に足を運んだ学生が、ドラマの内容と展開、出演者の演技に深く感動していた。ステージで彼女がアメリカのスタンダード・ナンバーを何曲も歌う、華やかなステージとしても楽しめる舞台だった。

 

『怒りをこめてふり返れ』は同じ若者でも、無口どころか、とにかく怒りまくって叫び、相手を非難し、やり場のない苛立ちを周囲にまき散らす男が主人公。その怒りは戦後の英国旧来の価値観に対する不満から生まれたものなのだが、現代の日本における、先の見えない若者の心情に重なる部分もあると思う。だがこの劇は反体制の政治劇ではなく、やるせない男女関係がメイン・プロットとして描かれている。案外こちらのいびつな愛のドラマに注目してレポートをまとめていた学生が多かった。遠近法をそのまま三次元の空間に再現して、狭い屋根裏のアパートとして表現した舞台美術が秀逸だった。スタッフ賞として二村周作の舞台美術を選出したい。

 

『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』も『管理人』も不条理劇と呼ばれているので、へたをすると難解、退屈なだけの舞台に終わってしまうことがある。ところが今回の2公演は、キャラクターの衝突から生まれる、滑稽で緊張感あふれる空気がとてもスリリングで楽しめるものになっていた。読めない状況と展開にとまどい、登場人物と共にわけの分からない世界で振り回され、観客は作者の(そして演出家の)作戦にまんまと乗せられてしまっていた事になる。両舞台とも、俳優の個性も最大限に引き出されていて、最優秀賞として甲乙つけがたい。ここはイギリス演劇賞としては『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』を選び、『管理人』は温水洋一を最優秀主演男優賞として記載しておきたい。

 

 イギリス演劇の劇評・観劇レポートの抜粋は

 → 2017年観劇レポートと劇評よりのページへ

 


 

 【アメリカ演劇賞】

 『十二人の怒れる男たち』

   (俳優座劇場プロデュース)

   レジナルド・ローズ作 

 『アザー・デザート・シティーズ』

   (梅田芸術劇場)

   ジョン・ロビン・ベイツ作

 『33の変奏曲』

   (劇団民藝)

   モイゼス・カウフマン作

 『プライムたちの夜』

    (新国立劇場)

   ジョーダン・ハリソン作

 

選評

俳優座劇場プロデュースによる『十二人の怒れる男』は初演が1988年(原作のテレビ・ドラマは1954年、映画化は1957年製作)。1995年に酒井洋子訳、西川信廣演出で再スタートし、2015年に再演された後の再々演である。舞台装置を変えない室内劇であるにもかかわらず、陪審員12人の白熱していく議論の展開に目が離せなくなる舞台だった。出演者12人全員の個性豊かな演技が素晴らしかったので、特別賞としてアンサンブルの演技も表彰したい

 

『アザー・デザート・シティーズ』はアメリカの西海岸を舞台にした知的な一家の物語。主人公は作家である長女で、共和党員の両親と思想的に対立するばかりか、両親と対立して自殺に追い込まれていった兄の話を小説にしようとする。家族の負の歴史をめぐる親子、姉妹、夫婦間の対立を軸とした力作で、荒涼とした砂漠のように不毛でネガティブな家族関係が描かれている。中嶋しゅう氏が公演中に亡くなってしまい、父親役の演技を見られなかったのは残念だったが、優秀なスタッフと演技陣が集結し、見ごたえある家族劇に仕上がっていた。

 

『33の変奏曲』は、難病に侵されながらベートーヴェンの変奏曲の研究を続ける音楽学者の女性が主人公。彼女の研究、闘病生活と並行して描かれていくのが19世紀のベートーヴェンが病気に苦しみながらも作曲を続ける姿。芸術、家族、病との闘いなど様々な主題を奏でながら、ピアノの生演奏と共に舞台はテンポ良く進行していく。変奏曲を扱いながら、多様な変奏のかたちに接して成長する人間、変わっていく人生というものを鮮やかに描いていた名舞台だった。他に演出家賞、主演女優賞、スタッフ賞(美術、照明、ピアノ演奏)も受賞。

 

幸せとは? 家族とは? 人口知能は必要か? 『プライムたちの夜』は様々な問いを投げかけてくる作品。若き日の亡き夫そっくりのアンドロイドと老婦人の会話に始まる話だが、近未来の無機質な世界を描いたものではなく、切なくも感動的な家族愛の物語だった。人口知能の問題は学生が最も注目したテーマのだったようで、多くの学生が新国立劇場に足を運び、意外な設定、予想外の展開、演技の素晴らしさなど、作品への様々な思いをレポートにまとめている。『プライムたちの夜』は計6部門で優秀賞を受賞。そのうちアメリカ演劇賞、、翻訳家賞、主演女優賞の3部門が最優秀賞となり、英米演劇大賞としても選出させていただいた。

 

惜しくも選外となったが、他にもアメリカ演劇の翻訳上演では、『君が人生の時』(新国立劇場)、『欲望という名の電車』(シアターコクーン)、『これはあなたのもの』(地人会新社)などの好舞台があった。

 

 アメリカ演劇の劇評・観劇レポートの抜粋は

 → 2017年観劇レポートと劇評よりのページへ

 


 

【翻訳家賞】

▶ 渡辺千鶴

 『君が人生の時』

 『クライムズ・オブ・ザ・ハート –心の扉-

▶ 小川絵梨子

 『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』

▶ 徐賀世子

 『紳士のための愛と殺人の手引き』

 『管理人』

▶ 常田景子

 『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー』

 『プライムたちの夜』

 『夢一夜』

▶ 松岡和子

 『アテネのタイモン』

 

選評

渡辺千鶴は登場人物の「心の扉」を開き、日常的で穏やかなやり取りに潜む繊細で機微あふれる感情を違和感なく表現していた。小川絵梨子は主人公二人、旅役者の一行、城内の『ハムレット』の登場人物の世界という三つの世界を訳し分け、虚構と現実のボーダーラインを描いた戯曲の面白さと深みを見事に表現。徐賀世子が訳した『紳士のための愛と殺人の手引き』と『管理人』は、ミュージカルと不条理劇という真逆の世界ながらも、いずれも毒とユーモアを含む2作品。せりふから戯曲の個性が響いてくるようだった。

 

常田景子の2017年の活躍には目を見張るものがある。近未来のシリアスな家族劇、アメリカのハートウォーミングな喜劇、英国発の大ヒット・ミュージカルという3作品の翻訳。特に『夢一夜』の女装好きの男たちの口調や『ビリー・エリオット』の炭鉱夫たちの訛りなど、耳にしているだけでも楽しめるような日本語だった。

 

蜷川はシェイクスピア全作演出を果たせないままこの世を去ってしまったが、松岡訳は坪内逍遥訳、小田島雄志訳に続く3人目の全作翻訳への道をまだ歩んでいる最中である。吉田剛太郎や藤原竜也らのパワーを最大限に引き出すようなエネルギーをシェイクスピアの言葉から常に力強く引き出している。カクシンハンのシェイクスピア(『タイタス・アンドロニカス』など)や新潟シェイクスピアカンパニー & シアター代官山プロデュースの『十二夜』(9月)も松岡和子訳。ジョン・ケア―ド演出『ハムレット』の台本も松岡訳に基づいている。

 


 

【演出家賞】

 宮田慶子 (君が人生の時/プライムたちの夜)

 丹野郁弓 (33の変奏曲)

 シルヴィウ・プルカレーテ (リチャード三世)

 森新太郎 (管理人)

 吉田剛太郎 (アテネのタイモン)

 

 選評

宮田慶子は名作『君が人生の時』のリバイバルと、近未来のアンドロイドと人間を描いた新作『プライムたちの夜』の2作を演出。現代で見えにくくなっている大切な感情や人間関係を見つめ直す貴重な機会を与えてくれた。音楽学者とベートーヴェンを描いた『33の変奏曲』の丹野郁弓は、舞台上で音楽と演劇を一体にしてみせ、心地良いテンポで感情豊かなドラマを作り上げていた。シルヴィウ・プルカレーテは『リチャード三世』でシェイクスピアの描いた悪とグロテスクを煮詰めて抽出。歴史劇という枠を超えた、残酷なサーカス・ショーとして恐ろしいものがあった。森新太郎はエゴや欲望などの表現に秀でた“闇の演出家”として絶好調。日本人の演出家のみを対象として選ぶなら、『管理人』の森新太郎が最優秀演出家だろう。吉田鋼太郎は、蜷川演出を継承し、彩の国さいたま劇場のシェイクスピア芸術監督としてシェイクスピア全作上演シリーズを再スタートさせた。次回は2019年2月、松坂桃季主演の『ヘンリー五世』。その後も『ジョン王』『終わりよければすべてよし』『ヘンリー八世』と、蜷川が上演を敬遠していた作品が残されている。だが『アテネのタイモン』を観て、劇場も観客も余計な心配をする必要は一切なくなったと言っていいだろう。

 


 

【主演男優賞】

 市村正親 (紳士のための愛と殺人の手引き)

 生田斗真/菅田将暉

   (ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ)

 佐々木蔵之介 (リチャード三世)

 温水洋一 (管理人)

 

選評

市村正親はエンターテイナーとして常に観客楽しませてくれる。『紳士のための愛と殺人の手引き』は市村正親にぴったり、いや、彼のために書かれたようなミュージカル・コメディだ。何せ貴族、聖職者、銀行家、軍人、女優など、劇中で殺される8役を1人で演じるという趣向の作品なのだから。『屋根の上のバイオリン弾き』のテヴィエ役も年を重ね、板についてきた。今後の活躍がますます楽しみである。

 

『ハムレット』の端役二人を主人公にした『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』の生田斗真と菅田将暉は、まるで漫才師のように息が合っていた。二人の掛け合いに観客は笑い、先の見えない状況に戸惑いを見せる時は、小川絵梨子の演出を受けて、観客も不安になってしまうような姿を見せてくれた。二人は映画での活躍も目覚ましいものがあり、昨年は数多くの映画賞でノミネートされ、受賞も多かったオンライン映画演劇大学・シネマグランプリ2017では、生田斗真を『彼らが本気で編むときは、』で、菅田将暉を『あゝ荒野』で主演男優賞にノミネート。前者を主演男優賞として選出している。

 

毎朝『ひよっこ』を観ていた学生が佐々木蔵之介のリチャード三世に驚嘆していた。すでに一人芝居でマクベス(2015)を演じており、野心のためなら殺人をも厭わない悪党役が似合うようになってきている。温水洋一は『管理人』の会心の演技で、すでに紀伊国屋演劇賞の個人賞を受賞している。彼が演じたのはデーヴィスというホームレスの老人。姑息な生き方しかできない小心者で、観客を不快にする。本人の気の弱そうな話し方と風貌がぴったり役にハマっていた。

 


 

【主演女優賞】

 大原櫻子 (リトル・ヴォイス)

 寺島しのぶ (アザー・デザート・シティーズ)

 大竹しのぶ (欲望という名の電車)

 樫山文枝 (33の変奏曲)

 浅岡ルリ子 (プライムたちの夜)

 

選評

大原櫻子が演じたリトル・ヴォイスの歌声には、劇中の人々と同様に心を揺さぶられ、感動した学生も多かった。コミュニケーションが苦手なヒロインにしては、可愛いすぎる感もあるが、歌手としての実力も満開の舞台だった。おそらくスタンダード・ナンバーの名曲の数々を歌いこなすまでには、歌の特訓も相当受けていただろう。歌唱指導(花れん)もスタッフ賞として高く評価しておきたい。

 

『アザー・デザート・シティーズ』の寺島しのぶは自殺してしまった兄の記憶に悩む作家の役だった。家族に対して強気な行動に出ようとする主人公の悲しみがストレートに伝わってくる演技で、傷ついた心をアピールするかのごとく語る姿が痛ましかった。大竹しのぶは2002年にも蜷川幸雄の演出で『欲望という名の電車』のブランチを堤真一のスタンリーを相手に演じている。今回はフィリップ・ブリーンの演出が彼女を客席の通路から登場させるなど、ヒロインが舞台映えする演出だったため、前回に比べて偽りと狂気の演技が際立って見えた。山文枝は『33の変奏曲』でALS(筋萎縮性側索硬化症)を患っているベートーヴェン研究者の役。感傷的な難病ものとは異なる作品なので、音楽への探究心を知的な表情と台詞で表現。一方で娘との確執に悩む姿も感情豊かに表現していて見事だった。

 

浅岡ルリ子は1980年代に『にごり江』『欲望という名の市電』など、蜷川幸雄演出の舞台に出演を重ねて以来、舞台女優としても気品と風格あふれる演技を見せてきた。特にテネシー・ウィリアムズ作『渇いた太陽』(2013年/シアタークリエ)では、かつての美貌と人気を失った大女優を圧倒的な存在感をもって演じており、その年の主演女優賞に値する演技だったと思う。『プライムたちの夜』でも、夫に先立たれた老婦人の哀しさ、何事も娘には譲れないプライド、そしてアンドロイドとして作られた偽の感情などを巧みに演じ分け、舞台女優として円熟の境地を見せていた。

 


 

【助演男優賞】

 國村隼 (ハムレット)

 半海一晃

  (ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ)

 溝端淳平 (管理人)

 横堀悦夫 (夢一夜)

 

選評

國村隼は、韓国映画『哭声/コクソン』で田舎の村に住む不気味な日本人を演じ、韓国の映画賞で助演男優賞と観客賞を受賞するという快挙を成し遂げたばかり。出演者が皆二役以上演じる、ジョン・ケア―ド演出『ハムレット』では、先王の亡霊とハムレットの叔父クローディアスの二役を演じた。彷徨う死者の恐ろしさ、国王としての威厳、殺人の罪を犯した罪悪感などを、冷たい表情と低く響く声に乗せて巧みに表現。内野聖陽が演じたハムレット以上に存在感があった。

 

半海一晃は掴みどころのない謎の旅芸人を演じ、「人を死へと誘うメフィストフェレス」(パンフレット掲載のインタビューより)として生と死の世界の間を飄々と行き来していて味わい深く、『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』の虚構の世界に大いに貢献していた。溝端淳平は蜷川幸雄演出の『ヴェローナの二紳士』(2015)では主人公の女性役を魅力的に演じ、『るつぼ』(2016)では誠実な牧師役として舞台に立つなど、役柄の幅を広げ、舞台俳優として実力をつけてきている。『管理人』では優しい人物なのか、鋭い物言いで相手を操り、もて遊んでいるだけの男なのか、解答不明のまま、不気味な存在として観客の心をも操っているかのようだった。

 

横堀悦夫は女装コンテストに出場しようとする男を『夢一夜』で加藤健一と共に好演。カトケン以上に笑えるどころか、トランスヴェスタイト(異性装者)としての女装とせりふ術は完璧で、本当にそういう類いの人なのかなと思えたほど。モーテルを舞台にしたコメディの道化役として、そのユーモラスな口調や仕草も楽しめたが、心やさしいキャラクター造りも自然で感情移入しやすく素晴らしい演技だった。

 


 

【助演女優賞】

 染谷麻衣/大矢朋子 (アルジャーノンに花束を)

 のぐち和美 (タイタス・アンドロニカス)

 安蘭けい (リトル・ヴォイス)

 香寿たつき (プライムたちの夜)

 鈴木杏 (欲望という名の電車)

 

選評

劇団昴『アルジャーノンに花束を』の主人公チャーリイは、32歳でも子供と同じ知能の持ち主だったが、手術により天才へと徐々に変化していく過程で、人として素朴で純粋な気持ちや良き仲間を失っていく。このチャーリイを疎ましく思っていた妹ノーマを演じていたのが染谷麻衣。きつい物言いの強烈さがチャーリイの不憫な姿を際立たせていた。その一方で成人して兄と再会する場面では、思いやりのある言葉と表情の自然な演技が兄と妹の間の切なさを表現していて泣かされた。大矢朋子はチャーリーの母親ローズ役。世間体を気にして息子を施設へ送り、再会した時は息子が誰か分からない認知症のような状態になっている。島畑洋人演じる父親との再会場面と同様、あまりにも悲しい感情的クライマックスの素晴らしい演技だったと思う。『アルジャーノンに花束を』を観た舞台の感動は数多くの学生が観劇レポートで伝えている。

 

のぐち和美は、女優なのか、女優でないのか、それが問題だった。当初は助演男優賞候補に考えていたが、本人のブログに「女優」とあったので、助演女優賞受賞とした。『タイタス・アンドロニカス』では、悪王サターナイナスを不気味な悪の巨漢として演じ、カクシンハン版シェイクスピアの重要なアクセントとなっていた。

 

元宝塚の安蘭けい、香寿たつきが助演女優賞として並んだ。安蘭けいは『リトル・ヴォイス』の母親役。娘の心配よりも新たな男との出会いに必死の、気の荒いシングルマザーを演じた。「圧巻の演技」「演技に魅了された」「演技がこの劇の迫力と深見に繋がっていると感じた」など、2017年の観劇レポートで学生の絶賛の声が最も多かった演技の一つである。『プライムたちの夜』の香寿たつきは、年老いた母親を介護している娘役。母親および夫との関係に齟齬をきたしていく女性の苦しみと哀しみが嫌というほど伝わってきた。

 

鈴木杏は『欲望という名の電車』で主人公ブランチの妹ステラを演じた。姉のおかしな言動に振り回されながらも、妹として、妻として、そして母親として必死に生きていこうとする姿が痛ましい。終幕、精神病院に送られる姉を見送る場面で劇は終わる。自分が生んだばかりの赤ん坊を渡され、茫然と立ちつくすステラを後ろから夫のスタンリーが抱きしめる。原作では「我を忘れて泣きじゃくる様子に、どこか満ち足りた感じが見られる」というト書きがあるのだが、今回の舞台では、むしろ言葉が出ないという表情で静かに立ちつくす彼女の姿で幕となっている。夫に慰められ、女として彼にもたれかかる様子でもなければ、作者のテネシー・ウィリアムズ自身が脚本を担当した映画化(1951)のように、夫を非難するような言動を見せるわけでもない。フィリップ・ブリーンの演出はブランチの悲しい姿だけでなく、ステラの切ない心情も的確にとらえ、この劇をあくまでも南部の姉妹のやるせない物語として演出している。鈴木杏はこの演出にしっかりと応えていた。

  


 

【スタッフ賞】

 

《美術》

香坂奈奈 (管理人)

石井強司 (十二人の怒れる男たち)

二村周作 (怒りをこめてふり返れ)

原田愛 (リトルヴォイス)

松岡泉 (33の変奏曲)

 

《美術・衣装》

ドラゴッシュ・ブハジャール (リチャード三世)

《衣装》

宮本宣子 (ハムレット/33の変奏曲)

小峰リリー (アテネのタイモン)

 

《照明》

大迫浩二 (管理人)

原田保 (リトル・ヴォイス/アテネのタイモン)

中川隆一 (ハムレット/プライムたちの夜)

 

《ピアノ演奏》

鈴木ゆみ/猪野麻梨子 (33の変奏曲)

《ドラム演奏》

ユージ・レルレ・カワグチ (タイタス・アンドロニカス)

《歌唱指導》

花れん (リトル・ヴォイス)

 


 

【オンライン映画演劇大学 名誉賞】

 ▶ 宮田慶子 〜新国立劇場芸術監督としての功績に対して

 ▶ 中嶋しゅう 〜生前の存在感ある名演に敬意と感謝をこめて

 

選評

2010年より新国立劇場の演劇芸術監督を務めてきた宮田慶子氏は、これまでに英米演劇では『わが町』『るつぼ』『ピグマリオン』『パッション』といった20世紀の古典的名作を演出。一方で『永遠の一瞬 –Time Stands Still-』『負傷者16人 ―SIXTEEN WOUNDED―』など、現代の人間と社会が抱える様々な問題を掘り下げた新作にも取り組んできた。解釈過多にならず、言葉と演技に多くを託した舞台の演出や数々の企画が素晴らしかった

 

中嶋しゅう氏(享年69)は舞台でひときわ異彩を放っていた。多くが助演ながらも常に渋い味わいがある演技で、登場するだけで舞台の空気が張り詰めることも多かった。近年の舞台ではシアター風姿花伝での『帰郷/ホームカミング』と新国立劇場でタイトル・ロールを演じた『ヘンリー四世』の演技が忘れ難い。作品内容や主演のキャスティングに期待が持てなくても、この人が出ているなら、と思ってチケットを購入する役者の一人であっただけに、昨年夏の訃報は本当に残念でならなかった。心からご冥福をお祈り致します。

 

【特別賞】

▶『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー〜(ホリプロ)の卓越した公演成果に対して

▶『十二人の怒れる男』(俳優座劇場プロデュース)の12人(塩山誠司、岸槌隆至、青木一宣、瀬戸口郁、渡辺聡、山本健翔、古川龍太、原康義、金内喜久夫、柴田義之、米山実、溝口敦士)にアンサンブル演技賞として

 

National Theatre Live Award

Carrie Cracknell (The Deep Blue Seaの演出)

James Corden (One Man, Two Guvnors演技)

 


 

  <英米演劇大賞最終候補作一覧>

 

▶ 『プライムたちの夜』

  (大賞および6部門で受賞/3部門で最優秀賞受賞)

  英米演劇大賞

  最優秀アメリカ演劇賞

  最優秀主演女優賞 (浅丘ルリ子)

  最優秀翻訳家賞 (常田景子)

  演出家賞 (宮田慶子)

  助演女優賞 (香寿たつき)  

  スタッフ賞 (照明 = 中川隆一)

『管理人』(受賞数7)

  最優秀主演男優賞

  イギリス演劇賞/翻訳家賞/演出家賞

  助演男優賞/スタッフ賞 (美術/照明)

▶ 『33の変奏曲』(受賞数6)

  アメリカ演劇賞/演出家賞/主演女優賞

  スタッフ賞 (美術/衣装/ピアノ演奏)

『ローゼンクランツとギルデンスターンは

   死んだ』(受賞数5)

  最優秀イギリス演劇賞

  翻訳家賞/主演男優賞×2/助演男優賞

▶ 『リチャード三世』(受賞数5)

  最優秀演出家賞/シェイクスピア賞

  主演男優賞/スタッフ賞 (美術・衣装)

 


 

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    演劇学部推薦公演(2019年秋期)

   

  

    映画学部推薦作品(2019年秋期)

   

  



  

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  ・ 演劇学部推薦公演

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     <新着記事・講座>

  

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Update

・ 2019年英米演劇上演予定

             (19/8/8)

 

・ 『英国万歳!』で

     朗読される

     『リア王』の名場面

     が掲載されました。

             (19/5/31)

 

・ 『英国万歳!』

   〜登場人物・物語の解説

     が掲載されました。

             (19/5/30)

 

・ ミュージカル

   She Loves Me のすべて

     が掲載されました。

             (19/5/5)

 

・ 映画学部主催の新講座

   アカデミー賞と

     アメリカ映画の歴史

     講座内容・予定が

     発表されました。

             (19/5/1)

 

・ オンライン映画演劇大学

     英米演劇大賞2018

    (受賞作・受賞者の発表)

 

・ オンライン映画演劇大学

     シネマグランプリ2018

    (受賞作・受賞者の発表)

 

・ 2018年 (第92回)

     キネマ旬報ベストテン

 

・ 2018年 IMDb

     外国映画ベストテン

    (資料作成: 今村直樹)

 


  

 

 

 〜優秀賞の発表と選評〜

  


  

・ 2017年 IMDb

     外国映画ベストテン

    (資料作成: 今村直樹)

  




  

<過去の主要記事・講座>

  

     【シェイクスピア学科】

  

        (講師: 広川治)

・ 講座概要・予定

・ 第1回  シェイクスピアって

                 ヤバくない?

・ 第2回  恋人たちの

                 シェイクスピア

・ 第3回  軍隊で

            シェイクスピア?

・ 第4回  アクション・スター

            がハムレット

・ 第5回  俳優たちの

                 『ハムレット』

・ 第6回  国王のための

                 名せりふ

・ 第7回  宇宙の彼方の

                 シェイクスピア

  




  

     【アメリカ演劇学科】

  

・  『エンジェルス・イン・

       アメリカ  第1部』

      (解説: 篠山芳雄)

  

・  アーサー・ミラー

  『セールスマンの死』研究

  (講師: 篠山(ささやま)芳雄)

  


  

 

  (講師: 小島真由美)

・ 講座概要

・ 作品リスト

・ 映画リスト

・ 第1回入門編

・ 第2回 『カム・ブロー・

              ユア・ホーン』

・ 第3回 『はだしで散歩』

・ 第4回 『おかしな二人』

・ 第5回

    『スウィート・チャリティ』

 原作: 映画『カビリアの夜』

          初演(1966年)

映画『スウィート・チャリティ』

                   *

・ 第6回 映画 『紳士泥棒

          大ゴールデン作戦』

・ 第7回 『星条旗娘』

・ 第8回 『プラザ・スイート』

・ 第9回 『浮気の終着駅』

・ 第10回 『ジンジャー

               ブレッド・レディ』

  




  

     【イギリス演劇学科】

  

・  ワイルド流喜劇のレシピ

      オスカー・ワイルド

      『まじめが大切』論

      (講師: 石田伸也)

  

・ テレンス・ラティガンを観る

         『深く青い海』

        (講師: 広川治)

 

・    『ローゼンクランツと

ギルデンスターンは死んだ』

      (解説: 石田伸也)

  

・   ミュージカル

    『ビリー・エリオット』

   〜英語の歌詞に見る

       団結、自由、信念〜

        (講師: 広川治)

  


  

    

      + 観劇レポートより

  




  

 【映画学部・映像文化学科】

  

・  カズオ・イシグロ

   『日の名残り』の映画化

      (講師: 篠山芳雄)

  

・ キネマ旬報ベストテン分析

      (講師: 今村直樹)

  

  <2017年夏>

     世界の映画を観る、

        映画で世界を見る

  


  

    

  




  

 (詳細な目次については

  CONTENTSページ参照)

  

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   演劇学部推薦公演

    (2019年8月)

  

   ヘンリー六世 三部作

       リチャード三世

       (カクシンハン)

作: シェイクスピア

翻訳: 松岡和子

演出: 木村龍之介

主演: 河内大和、真以美

        (7/25〜8/12)

  


  

       人形の家part2

         (パルコ)

 作: ルーカス・ナス

 翻訳: 常田景子

 演出: 栗山民也

 主演: 永作博美

        (8/9〜9/1)

  


  

    ブラッケン・ムーア

          (東宝)

作:アレクシ・ケイ・

         キャンベル

翻訳: 広田敦郎

演出: 上村聡史

主演: 岡田将生、木村多江

        (8/14〜27)

  

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 映画学部推薦作品 (新作)

  

 (2018年洋画推薦作品)

   


  

 『スリー・ビルボード』

   2/1〜  公式サイト

 『タクシー運転手

    約束は海を越えて』

   4/21〜  公式サイト

 『フロリダ・プロジェクト

     真夏の魔法』

   5/12〜  公式サイト

 『ワンダー  君は太陽』

   6/15〜  解説ページ

 『ブリグズビー・ベア』

   6/23〜  公式サイト

  


  

 『判決、

     ふたつの希望』

   8/31〜  公式サイト

 『1987、

     ある闘いの真実』

   9/8〜  公式サイト

 『バッド・ジーニアス』

   9/22〜  公式サイト

 『search サーチ』

   10/26〜  公式サイト

 『ボヘミアン・ラプソディ』

   11/9〜  公式サイト

 『アリー/ スター誕生』

   12/21〜  公式サイト

  



  

 (2019年1月推薦作品)

 『バジュランギおじさんと、

   小さな迷子』

   1/18〜  公式サイト

  


  

 (2019年2月推薦作品)

 『メリー・ポピンズ

     リターンズ』

   2/1〜  公式サイト

 『女王陛下のお気に入り』

   2/15〜  公式サイト

  


  

 (2019年3月推薦作品)

 『グリーンブック』

   3/1〜  公式サイト

 『ブラック・クランズマン』

   3/22〜  公式サイト

  


  

 (2019年4月推薦作品)

 『僕たちのラストステージ』

   4/19〜  公式サイト

 『幸福なラザロ』

   4/19〜  公式サイト

  


  

 (2019年5月推薦作品)

 『ドント・ウォーリー』

   5/3〜  公式サイト

 『僕たちは希望という

      名の列車に乗った』

   5/17〜  公式サイト

  


  

 (2019年6月推薦作品)

 『SANJU/サンジュ』

   6/15〜  公式サイト

 『パピヨン』

   6/21〜  公式サイト

  


  

 (2019年7月推薦作品)

 『COLD WAR

      あの歌、2つの心』

   6/28〜  公式サイト

 『Girl/ガール』

   7/5〜  公式サイト

  


  

 (2019年8月推薦作品)

『存在のない子供たち』

   7/20〜  公式サイト

 『シークレット・

      スーパースター』

   8/9〜  公式サイト

  

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